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第152話
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「痛い痛い! 慶史、痛い!!」
「ちょっと慶史君、流石にやりすぎだよ! それに悠栖も今のは失言だからね!」
悲鳴をあげる悠栖。朋喜は怒りのあまり暴走しかけている慶史を止めるように二人の間に割って入った。機嫌が悪いのは知っていたけど暴力はダメだよ! と。
「だから別に機嫌が悪いわけじゃ―――」
「それ、葵君の目を見て言えるの?」
忌々しそうな顔の慶史に全く怯むこと無く凄む朋喜は、何故か僕を指差してきた。
なんでここで僕? って思ってしまうのは仕方ない。だって普通は『自分の目を見て』って言うところだよね?
困惑する僕を余所に朋喜を睨み付けていた慶史は言葉を詰まらせて、そうかと思えば「わかったよ……」と悠栖を解放して大きなため息を吐いた。
「……ごめん、今結構感情が抑えられない……」
その場にしゃがみこんで「イライラが止められない」って言葉を溢す慶史。
僕はそんな慶史の心配をするも、その理由が全く分からないから聞いても大丈夫かどうか迷ってしまう。
するとそんな僕の疑問を代弁するかのように悠栖が「理由、聞いてもいいか?」って尋ねてくれていて……。
「……ダメ。聞かないで……」
「慶史君、葵君が困ってるよ? いいの?」
しゃがみこんだ慶史に視線を会わせるように身を屈める朋喜は、「僕達は何となく分かってるからいいけど」って言った。
その言葉に、僕は思わず悠栖を見た。悠栖は分かってないよね……? と確認するように。
(だってさっき『聞いてもいいか?』って言ってたし……)
だから悠栖は慶史のイライラの理由を知らないはず。
でも、そう思っていた僕に悠栖は申し訳なさそうな顔をして「まぁ、今回は分かりやすいし、な」と苦笑いを浮かべた。
(えっと、つまり、僕だけが知らないってこと……?)
理解して、正直ショックだった。慶史のことは初等部の頃からずっと一緒だった僕が一番理解してるって思っていたから、本当に言葉が出ないほどショックだった。
友達に順位をつけているわけじゃないけど、慶史のことは『一番の親友』だと思っている。でも、僕は『一番の親友』が辛い思いをしていることは分かっても、その理由が分からなかった。悠栖や朋喜は分かっているのに、僕だけが……。
「嫌な言い方しないでよ。仕返しのつもり?」
「そういうわけじゃないけど、僕が葵君の立場だったら『親友』が僕にだけ隠し事してる気がしてショックだろうね」
「! 本当、ムカつく」
朋喜は笑顔のまま僕を振り返ると、「慶史君が説明してくれるみたいだよ」って手招きして見せた。
慶史は一言も『説明する』とは言ってない。だから僕は朋喜の手に従って良いのか迷ってしまう。
すると悠栖が僕の背中を押してきて、「急がないと迎えが来るぞ」って言って大丈夫だからと促してくれた。
「あの、慶史……」
おずおずと慶史に近づけば、朋喜は立ち上がって今度は僕を慶史の前に座らせる。
「……ごめん」
「! ううん。僕こそごめんね? 慶史がイライラしてることは分かってたんだけど……」
「葵は悪くないよ。俺が葵には隠してたんだし……。葵には言いたくなかっただけだし……」
俯いたままポツリポツリと言葉を紡ぐ慶史。
僕は、僕に『だけ』という慶史の言葉に悲しくなってしまう。
「今から言うことは俺のワガママだから聞き流して」
「うん。分かった」
出来れば言いたくなかったけど変な誤解をされたくないからって言って慶史は口を開くと、最近ずっとイライラしていた理由を教えてくれた。
「来週からあの人が葵を独り占めするだろうから、めちゃくちゃムカついてる」
「? 『あの人』……?」
「来須虎の事だよ。葵がイブに告白して付き合ったら、葵の一番はあの人になるでしょ……。あの人も絶対今まで通りなんて無理だろうし……。なによりあの人の勝ち誇った顔を想像するだけで腹が立って腹が立って―――」
「ちょ、ちょっと待って? 慶史、あの、ちょっと落ち着いて?」
説明しながらも虎君の事を考えて怒りが込み上がってきたのだろうか。慶史は怒りを露に語気を強めてまた暴走しそうだった。
僕は慌ててそれにストップをかけると、状況を整理させてとお願いする。
「えっと、つまり慶史は僕が虎君に告白するのが嫌なの……?」
「違うよ、葵君。慶史君は葵君が幼馴染みのお兄さんとラブラブになって自分はおざなりにされると思って落ち込んでるんだよ」
「! 朋喜っ!!」
『告白する』こと自体はなんとも思ってない。慶史はその後の事を考えて落ち込んでいる。
僕のズレた理解を訂正してくれる朋喜の声は愉しげで、バツが悪いのか慶史は「笑うな!」って朋喜を睨んでる。つまり、朋喜が言ったことはどうやら真実みたいだ。
「確かに恋人ができたら友達を蔑ろにする奴は多いけどさ、慶史だって分かってるんだろ? マモがそんな奴じゃないってことは。それなのに妄想だけ膨らましてイライラして八つ当たりとかマジで勘弁してくれよ」
さっきのめっちゃ痛かったからな?
理解が追い付かなくて必死に頭を働かせている僕の隣にはいつの間にか悠栖がしゃがみこんでいて、「今回は許してやるけど次からは反撃するからな」って慶史を指差して笑っていた。
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