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付き合っている2人
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「え」
「俺、あんたと話してみたかったんだよね。いいじゃん、座りなよ」
「あの、でも」
俺はちらりと京のいる方向を見た。まだ列に並んでいる。こっちに戻ってくるにはもう少し時間がかかりそうだ。
ガタイの良い男子生徒は俺から視線を逸らすと、京を見て目を細めた。
「いっつもあいつがいて、金扇くんとは話せないし近づけないって、みんな言ってるよ。みんなさ、君が気になってるのに」
「え?」
男子生徒の言葉に、俺は眉をひそめた。みんな俺を? どうして、俺なんかを……。
「だって、金扇家ってかの有名な陰間茶屋じゃん。現存する唯一のさ。最古の、高級ホストクラブでしょ?」
口元を歪めたその笑みに、俺の肌がぞくりと粟立った。
咄嗟に腕を振りほどこうとするが、痛いくらいに掴むその手は力を弱めることを知らない。辺りを見渡せば、俺たちを包むただならぬ空気に多くの生徒がこちらを見つめていた。
自分は悪いことはしていない。なのに、なぜだか自分の出自に後ろめたさを感じる。
こっちを見るな、見るな、見るな!
俯いて固まった俺に、男子生徒は畳み掛けるように下品な言葉を紡いだ
「てことはさ、体も、売ってるんだよね」
「汚い奴」
その瞬間。
男子生徒が言葉を放った瞬間だった。
痛いくらいに掴まれていた手首が突然解放された。弾かれたように前を見ると、椅子に座っていた男子生徒は椅子ごと後ろに倒れている。
そして、俺と男子生徒を挟むように、京が立っていた。背中越しに感じる気迫に、思わず圧倒される。
「君さ、喧嘩売る相手、間違えてない?」
冷たい声を放った後、京はすぐに俺の手首を優しく掴んだ。
そして何も言わずにそのテーブルから離れようとする。
俺は引きずられるように京の後ろを歩き、ちらりと後ろを向いた。転がった男子生徒が続けて大声を上げ、びくりと肩が震える。
「五十山! お前、調子乗ってんじゃねえよ!目障りなんだよ!」
しかし、京はその声にも反応しない。
「なんとか言えよ!!」
男子生徒がそう発した直後、京はピタリと立ち止まった。そして、お望みどおり口を開いたのだ。
「じゃあ忠告しておく。次君が綴のことを傷つけたなら、その時君の家は無くなっていると思ってよ」
京の言葉はひどく落ち着いていた。
それはもう、俺ですら京の顔を正面から見ることができないほどに。
「はっ、結局は自分の家頼みかよ。自分の力じゃ何もできないお坊ちゃんが!」
自分が傷つけられることよりも、京が貶されることのほうが勘に触る。
言い返そうとしたとき、京はゆっくりと男子生徒のほうへ歩き出していた。男子生徒の前まで来ると、京は彼と目線を合わせるようにしゃがんだ。
男子生徒の顔が引きつった。京の顔は、俺たちには見えない。
「自分のステータスを最大限利用して何が悪い? 手を伸ばせば届くのに、取るに足らないプライドで利用しない奴はただの馬鹿だと思うけど。俺はさ、別に五十山っていう苗字を過信してるわけじゃないけど、俺が使えるカードの一つではあるんだよね。たまたま自分の苗字が武器になるんだよ。だからさ、使わないわけにはいかないだろ?」
京と男子生徒の間に沈黙が流れた。
しかし、男子生徒には既に言葉を返す気力も無いように見えた。
この空間は、圧倒的に京のものになっていた。
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