アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
体育祭
-
寮を出て、いつもの通学路をゆっくり歩く。
通学路と言っても、校舎まではほぼ直線。あたりにお店は無いし、外にはいるだろう通勤途中の大人もいない。両脇に等間隔に植えられた木だけが唯一毎日の変化を伝えてくれる。
俺はぼーっと空を見上げ、その透き通るような水色に思いを馳せた。
これが、夏に変わる頃には眩しいくらいの青に変わっているんだろう。秋が来ると、やけにオレンジが映えるようになるんだろう。冬は、空がとても遠く感じる。
こんなにも姿を変える空の下で、俺と京はいつまでもずっと一緒に、いられるのかな。
京と仲違いするんじゃないか、なんてことを心配しているんじゃない。
俺と京のことを、世間が許してくれるのかということが不安なのだ。
今はまだ高校生だから、付き合っていることが大人にバレても若気の至りで済まされるだろう。しかし、お互いが家の仕事に就くことになったとき、俺たちは今と変わらずにいられるのだろうか。
京も俺も、家が嫌いなわけじゃない。だからこそ、必ずどちらかを捨てなくてはいけなくなることは、自分を作り上げる半身を失うくらい辛いのだ。
「おーい!」
「……」
「おいって!」
「うぇ!?」
肩を叩かれた。空に吸い込まれそうになっていた意識がこちらがわに戻り、俺は振り向く。そこには、片手を上げて満面の笑みを浮かべる木谷陸が立っていた。
「なぁんだ、陸か」
「なんだって何だよ」
また歩き始めると、陸も俺の隣を歩き始めた。
陸は中等部の時からの友達だ。ここでは珍しい、一般中流家庭出身。しかし、本人はそれを微塵も気にしていないらしく、中等部の時は難癖をつけてきた相手をコテンパンにやっつけていた。(物理的に、ではない)それ以降、陸だけは敵に回さない方がいいと周囲の生徒は学んだのか、ちょっかいをかけてくる輩もいなくなった。
ヤンキーと噂されることもままあるが、陸は普通の好青年である。
「他の誰かでも想像したのか?」
ニヤニヤする陸をじとっと睨む。俺は大きくため息をついた。
「京は今日は生徒会の仕事だからもう学校に行ったよ。ていうか、どうして陸がこっち歩いてんの? 陸は南寮でしょ?」
「昨日は北寮の友達の部屋に泊まってた。だから、実は昨日の食堂のあれ、見てたぞ」
その話題に無意識に肩に力が入る。
中等部の時からの友達である陸は俺の仕事についてよく知っているから、今更偏見も何も無いのはわかるが、それでも昨日のあの姿を見られたのは嫌だった。
そんな俺の様子を見てか、陸は何でもないように頭をかいた。
「ま、あれは100%あの男がわるいし、綴が気に病むことなんてなんもないからな」
「あ、ありがと」
陸の言葉にほっと胸をなで下ろす。あの一件は、案外周りの生徒にとってはどうでもいいことだったのかもしれない。あの男子生徒には悪いが、彼も影響力のある人物ではない。
「それにしても、生徒会か。この時期だと……体育祭かな?」
「うん、それだって言ってたよ」
「もうそんな季節か。よしっ! 今年も絶対うちのクラスが優勝だ!」
「いや、今年は京のクラスじゃないかな。去年の体育祭の後、京のクラスで反省会と来年に向けての改善点について話し合いがあったらしいし」
「何そのガチ勢、怖」
俺は去年のことを思い出してクスクス笑った。
この学園の体育祭は、クラス対抗戦だ。例年は3年生が一番盛り上がり、1、2年生は置いてけぼりなのだが、去年はなぜだか1年生が大いに盛り上がった。
2、3年生に負けて予選敗退の多い1年生が順調に勝ち進み、最終的に決勝が1年生対1年生だったのだ。それが、京のクラスの1年2組と俺達のクラス1年3組だった。
全ての競技の決勝をこの2クラスに奪われ、体育祭終了後3年生は大激怒だったらしい。
そして、去年は一点差で俺たちのクラスが総合優勝したのだ。
その後の京の冷たい目ったら無かった。京は基本的に負けることが嫌いなのだ。
「今日明日あたり、どの競技に誰が出るかーとかの話し合いありそうだな。あ、今年は綴出るのか?」
俺はその質問に首を横に振った。陸は「そっか」とだけ返した。
「あー! 一回くらい綴と体育祭出てみたかった!」
「ごめんね。俺も出たいんだけど……」
「いや、わかってる! これは仕方ないことなんだよな」
俺は「うーん」と曖昧な返事を返した。
実は一度だけ体育祭に出たことがある。それもまぁ小学生のときの話だが。
その時一度だけ体育祭に出て、俺は応援合戦の途中に倒れ救急車で運ばれたのだ。倒れた理由としては、疲労はその通り、あとは砂埃だった。そこから菌が入って熱を出し、数日の入院を余儀なくされた。
それ以降、親はどうにかして体育祭に出そうとしてくれたが、ドクターストップがかかってしまったのだ。俺自身も、その時のことがトラウマで積極的に出ようとは思わなくなっていた。倒れた時隣にいた京も、俺が体育祭に出る出ないの話にはいい顔をしない。
「来年は出られるといいなぁ」
ポツリと呟くと、陸はピンっと背を伸ばし「それいいな!いいな!」と俺の背中を叩いた。
前を向くと、大きな白壁の校舎が目前に迫っていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 569