アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
閑話7
-
綴が目を覚ますと、ベッドの上だった。掛け布団がかけられ、部屋の中は仄かに明るく、見渡せるほどだった。早朝のようだ。
体を起こすと、身に纏っていたのは着物ではなく、いつものパジャマだった。
綴は起き抜けのぼんやりとした頭で昨日のことを思い出していた。
京に舞を見せて、それからどうなったんだったか。
パジャマを着ているということは、そのあと普通に別れて眠ったのだろうか。いや、何か大切なことを忘れている気がする。
ガチャリと扉の開く音が聞こえた。音の方に目を凝らすと、上半身裸の京が洗面所から出てきたところだった。
嫌な予感が当たる気がする。
「おはよう。よく寝てたな」
普段と変わらない様子の京は、綴の近くまで歩いてきた。綴はバッと掛け布団を引き上げて口元を隠した。
「……なんだよ」
「京さん、なんで上半身裸なんですか」
「あ、そっか、綴はエッチの後記憶飛んでること多いもんな」
「っっっ!!!???」
声にならない叫び声を放ち、綴は顔を真っ赤に染めた。
やっぱりなんだか嫌な予感がすると思ったらそういうことだったんだ。何が今回はエッチなことしないだよ! 普通にヤっちゃってるじゃん!
綴はそろそろと腰に手を当てた。しかし、ヤった割には違和感が少ない。優しくしてくれたのだろうか。
「あー、昨日はセックスしてないから安心しろよ」
「えっ」
無意識に切ない声を出した綴を、京は指摘しなかった。エッチの後は結構な確率でそっけなくなる綴への配慮だった。
「そ、そっか。良かった」
胸をなで下ろす綴に、京はため息をつく。そして隣に座った。
「言っとくけど、昨日誘ったのは綴だと思ってるからね、俺」
「は? 俺が? そんなわけ……」
そこまで反論して、綴は昨日の舞の演目を思い出した。遊女の悲恋だった。途中まではいつも通り、夢の中を漂っているかのような感覚だったのに、京の顔が視覚に入り目が合った瞬間、自分でも抑えられないほどの熱が自分を支配したのだ。自分は確かにあの時、京に抱かれたいと、思っていた。
黙り込んだ綴に追い打ちをかけてやりたい気持ちになるのを、京はどうにか抑え込む。
「手出したのは俺だけど、先に勃ってたのは綴くんです」
綴はそれ以降何も言わなくなった。京が頭を撫でようとすると、ふいっと避けられてしまう。こういうのもいつものことだった。京としては、これもいいのだが、いつかはエッチの次の日の甘い雰囲気というのも体験してみたいものだった。
京は頭を撫でようとするのを諦めた。
「それはそうと、一緒に風呂入ろうよ」
風呂というワードに、綴が訝しげな顔になる。
「大丈夫、本当になにもやらないから。てか、朝からやってられるかって」
それでも綴はまだ尻込みをするようだった。
「綴の体、一応は拭いたけど、やっぱり学校行くなら風呂入ったほうがいいだろ? それとも、一緒には入りたくないですかそうですかっ」
京は焦れたように立ち上がると、自分一人で風呂に入ることにした。あまりに怪しまれるので、なんだか少しイラッとしたのもあった。
そのとき、「待って」と綴が京の腕に触れた。京は驚いて振り返った。
綴の顔は赤くなっていた。そして聞き取れるか聞き取れないからほどのボリュームで言った。
「一緒に……入る」
少し沈黙があってから、京は綴を立ち上がらせるとそのまま抱きしめてキスをした。柔らかいキスだった。
「えっ、えぁ、あの」
「風呂では何もしないんだから、キスぐらいいいだろ?」
そう言われて、綴は少し考えて頷いた。
綴はエッチの後に素直になれない。情事の最中のいやらしい自分を思い出すといたたまれない気持ちになって、本当はもっと京と絡みたいのに態度はそっけなくなってしまう。
いつもはそれを許容してくれる京だったが、今日は少し怒ってしまったようだった。だから、綴は慌てて自分の気持ちを伝えた。京はすぐに機嫌を戻してくれたが、同じことをこれからもできる気がしない。
そもそも、エッチの回数が少ないのだから、慣れるためにも自分から誘っていかないと……。
「綴? なんで黙ってるの?」
「う、え、あ、なんでもない! 風呂! お風呂入ろう!」
綴はもんもんと浮かぶあれやこれやをかき消すように、ずんずんと京を浴室に連れて行った。
二人が去った後の部屋には、朝日が差し込み始めていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 569