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間宮冬樹
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歩いていたはずが、京に会えるかもしれないと思うと気持ちがはやり小走りになった。
生徒会室からは光が漏れていた。まだ人が残っているようだ。
俺はドアの前で心を落ち着けた。
平然といけばいいんだ、平然と。もともと京のこと待ってたわけじゃないし。たまたま、調べ物してたらこの時間になっちゃって、最近一緒に帰れてないから、帰れたらいいんじゃないかなって思っただけなんだ。よし、いこう。
ドアに手をかけて開けようとした瞬間、自分の力ではない力でドアが開かれた。俺の肩はビクッとなり、ぱっと顔を上げて正面を向いていた。
「え、綴?」
「京……」
目の前に立つのは会いたかった京だ。お昼は毎日会っているのに、それでも会いたくなるほど好きな京。
しかし、その斜め後ろにもう一人人が立っている。驚くほど端整な顔をした、青色を映すような黒髪をした男子生徒。
「どうしたの? てか、なんでこんな時間まで残ってるの?」
京が不思議そうな表情で尋ねた。俺は京の後ろの人物から視線を外すと、口を開いた。
先ほどまでの口実は、全て消え失せていた。それほど、京とこの男子生徒が一緒にいたことに衝撃を受けたのだ。
「図書館、いて、今日一緒に、帰り、たくなって」
途切れ途切れの言葉。
京は少し悩むそぶりを見せた後、「ごめん」と謝った。
「今日はまだ仕事があるんだ」
「そっか……。えっと、その人は……」
視線を後ろの男子生徒に送ると、男子生徒はハッとした表情になって即座に前に進み出た。京の横に立つと、勢いよくお辞儀をする。
「1年4組クラス委員の間宮冬樹です! 今日から体育祭関連のお仕事を生徒会でさせていただくことになっていて、京先輩に教えてもらっていました! 金扇綴先輩ですよね? どうぞお見知り置きを」
顔を上げた冬樹くんは見惚れるほどの可愛さだった。
自己紹介を聞き、俺は冬樹くんを訝しんでいた自分を恥じた。
なんだ、クラス委員だったのか。それなら全てに合点がいく。京の教室に来ていたのも、よく近くにいるような気がしたのも、全ては冬樹くんがこれから仕事をするためだ。一緒に仕事をする人が気になるのは当たり前だ。ましてそれが、五十山京だというならば。
胸を覆っていた靄が少しだけ晴れて、ここでようやく笑みを作ることができた。
「わかった。今日はもう帰るよ。京も、あんまり無理しないでね。それじゃあ」
冬樹くんにも目配せをすると、微笑んでコクリと頷いた。
俺は一人、薄暗い校舎の中を歩いて行った。
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