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微妙な距離
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日が傾いていく。
作業が一区切りするたびに少し外を眺めて、また手元に戻る。そんなことを繰り返していた。
「綴先輩は、去年もこのお仕事をされてたんですね」
そんななか静寂を打ち破ったのは、間宮君だった。
驚いた俺は反射的に返事をする。
「あ、うん」
言ってから、あまりにそっけない対応をしてしまった気がして、ちらっと間宮君を確認した。
するとバッチリ目が合って、なんと微笑まれてしまう。アイドルかそれ以上の何か畏れ多いものを目の当たりにしたような気分で、俺はすぐさま目を逸らした。
あたふたと慌てた俺だが、よくよく考えるとものすごく失礼なことをしていることに気がついた。
目が合ったのに逸らして返事は情けなくて……。
きっと間宮君は気を遣って話しかけてくれたというのに。
そりゃそうだ。こんな重苦しい空気、間宮君だって気まずいはずだ。
「お、俺は、体があんまり強くなくて、毎年こういう裏方の役割をしてるんだよ。中学のときもそうだった。間宮君はどうしてここに? 差し支えなければ、教えてほしいな」
声は震えていなかっただろうか。何かおかしくは無かっただろうか。
こういうとき、自分はどうして他の人のように上手くお話ができないのだろうかと思う。京や陸とはあんなに普通に話せるのに。
「僕も同じようなものです。僕、日光に当たれなくて」
「あ、だから日傘さして……あ」
つい陸から聞いた情報をそのまま使ってしまったが、間宮君はにこりと笑っただけだった。
「ごめん……」
「いえいえ! 謝らないでください。本当のことですし、僕全く気にしてないので!」
間宮君は身を乗り出して告げた。そしていつもの可愛らしい笑顔で笑うので、悪いことをしてしまったと思いつつなんだか照れてくる。この顔は反則だと思う。
間宮君は居住まいを正すと、しっかりとこちらを見て言った。
「僕、今回綴先輩とお仕事できてすごく嬉しいんです」
「え、俺?」
なぜ俺なのだろう。問い返すとこくりと頷かれる。
「綴先輩は下級生の間でも有名です。噂はいろいろ流れてますけど、実際はどんな人なんだろうってすごく気になってて……。まさか、こんな可愛らしい人だとは思いませんでした」
「可愛らしい!?」
それは何かの間違いだろう。どこをどうやったら俺が可愛くなるのだ。
それに、間宮君と並んだら100人中100人が間宮君を可愛いと推すに決まっている。
「それを言うなら可愛いのは間宮君だよ。顔はもちろんなんだけど、声とか性格とか全部パーフェクトで。あ、前に学食で見かけたんだけどそのときもすごく可愛くて!」
訂正すると、間宮君の目がくすぐったそうに細められて、頬が少し赤くなった。
「やめてください、照れちゃいます」
両手で顔を覆う間宮君の可愛さもこちらも照れてしまう。これは収拾がつかない。
少し落ち着くためにまた作業を開始し(手が止まっていたのは俺だけだった)俺はぼんやりと思った。
これだけ可愛ければ、ちやほやされることも多いだろうが嫌な目にもたくさん遭いそうだ。
告白されまくりらしいが、それも本人の望むところではないだろうし、可愛すぎるのも罪だとつくづく思う。
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