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「僕、実はずっと京先輩のことが好きだったんです」
「誰にも言えなかったんですけど、綴先輩は特別です! ね、僕のこと応援してくれますか?」
冬樹君の言葉のほとんどは俺の中に入ってこなかった。まるで、全ての言葉をシャットアウトするかのように雑音が混じり、俺はすぐに答えられなかった。
体を前のめりにするように話していた冬樹君から、徐々に笑顔が消える。俺は俯いた。
どう感情を整理すれば良いかわからなかった。
「……やっぱり、無理ですか?」
「無理、とか、そういうことじゃ……なくて」
頭の中がうるさい。
「じゃあなんでですか? 僕のこと、協力してくれないんですか?」
「それは……」
口を開いて、とにかく何か話さなくてはと思う。顔をあげた俺は、目を見開いた。
冬樹君の顔は、楽しそうに笑っていた。
「ねぇ、やっぱり付き合ってるんですよね」
その声は確信だった。
人から、こうもはっきりと指摘されたことは未だかつてない。
俺は頷くことも否定することもできずに、冬樹君を見て座っていた。
「そんな怯えないでくださいよ。僕別に言いふらしたりしませんから。この学園で男同士の恋愛なんてよくあることですし、変なことじゃないですよ」
冬樹君はそこで一拍置くと、目を細めた。
「ただ、まぁ、家柄とか身分とか、将来のことをどう考えてるんだろうって疑問に思うところはありますけどね」
それは、俺と京が付き合うことの大きな障害だった。
「京先輩と綴先輩のお家、とても由緒ある家でどちらも絶えてはいけないですよね。もし、話が結婚まで及んだとして、100歩譲って男同士であることを周りが認めたとして、そのとき片方の家はどうなるんでしょう? 二人とも兄弟はいないですよね」
俺たちが生きる世界に、「駆け落ち」なんてことは許されない。
家を継ぐことは、長男として生まれた瞬間からの使命だった。
俺はまだ、それらのことを京と話したことはない。しかし、京だってわかっているはずだ。
俺たちが一緒になるということは、どちらかの家を捨てなきゃいけないこと。
もしくは、一緒にはなれないこと。
そして女性と結婚して、跡継ぎを作らなくてはならないこと。
ぎゅっと膝の上で拳を握る。汗ばんだ手が気持ち悪い。
「結局別れるんだったら、今別れてもいつ別れても同じですよね。綴先輩、僕に京先輩をくださいよ」
「それは、できない」
「どうしてですか」
だって。
「だって、まだ、別れるなんて決めてないよ」
空気をどうにか外に出しながら、俺は声を出した。
一方的に冬樹君に言われて、黙っているわけにはいかない。
冬樹君の言うことはもっともだが、それでもこれは俺と京の問題だ。
「俺たちもそういう問題が出てくるってわかって付き合ってるんだ。だから、誰にも口出しされたく、ない」
「……へぇ」
冬樹君は立ち上がった。
部屋に、冬樹君の足音と、校庭から聞こえる生徒の声だけが響いた。
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