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知らない何か
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翌日、俺は休み時間に間宮を呼び出した。
動くならさっさと動いた方がいい。
相手がおかしな行動を取る前に、綴に危害を加えかねない芽は摘み取らなくてはならない。
しかしまぁ、間宮がこれ以上綴に何かする可能性は低かった。
間宮の行動の動機は、今まで綴に嫌がらせをしてきた連中とは明らかに違う気がしたからだ。
少なくとも、間宮の目に俺は映っていなかっただろう。
だからといって、綴を傷つけたことを許すわけではないが。
間宮を呼んだのは校舎裏の休憩スペースだった。
使われていないそこは苔や蔦が覆い、お世辞にも使いたくなる場所ではない。
俺も間宮も目立つから、中庭での接触は避けたかった。
間宮は定刻どおりにやってきた。少し強張った顔つきは、俺を警戒しているのか。
「こんにちは、京先輩」
「こんにちは」
形だけの挨拶が俺たちの間を通り過ぎて、沈黙が落ちる。
今の間宮はどんなことでも簡単に口を割りそうだ。
「あの……今日は、綴先輩は、いないんですか?」
「あぁ、綴なら寮にいるよ。まだ体調が安定しないから、体育祭まで休ませるつもり」
今朝は綴が学校に行くと聞かないのをどうにか宥めてきた。
学校に来たら生徒会に来るだろうし、そこで間宮と会わせるのは嫌だった。
フラッシュバックが起こった時、俺がそこにいれる保証はない。
「体育祭には出るんですね?」
「もちろん、これは念のための保険だから」
そう伝えると、間宮はホッと胸をなでおろしたように強張っていた顔を緩めた。
やっぱり、綴が嫌いならこの反応はおかしい。
俺の前では作り物の顔しか見せない間宮だが、それは彼に余裕があったから。
綴のこととなると余裕が無くなるのは、つまり……?
「単刀直入に聞くけど」
俺は僅かに頬を歪めた。これは問いかけであり、確認だった。
「お前、俺のこと本当はそんな好きじゃないだろ」
間宮の一挙一動を逃さぬように、俺は目を据えた。
間宮はまた眉根を寄せた。
「それは、綴先輩が言ったんですか」
「それってどれ?」
間宮は言いにくそうに何度も口を少し開けては閉じる。
「だから、好きとか、そういう……」
「綴からは何も聞いてない。昨日どうしてあんなことになったのかも、綴は言ってない。ただ、俺がそう思っただけ。間宮は俺に、なんの興味もないんじゃないかって」
「そんなこと……」
間宮はここで初めて困惑した表情を見せた。
俺は密かに驚いていた。
間宮のその表情が、嘘偽りのない顔だったからだ。
それはイコール、彼は、本当に俺のことを好きだと思いこんでいたということだ。
すなわち、俺に毛ほども興味のない自分に気がついていなかった。
全くの興味外でありながら、自分の中で辻褄が合うように自分自身でそう繕っていた。
間宮が描く間宮は、「五十山京のことが好きだから金扇綴を邪魔だと思っている後輩」それを限りなく自分自身に投影させていた。
しかし、実際の彼の思いはそれとは真逆だったのだろう。
綴への異常なまでの執念に思わず苦笑した。
「ち、違う。僕は、本当に、京さんのこと……好きで……」
間宮は片手で頭を抑えてうわ言のように言葉を発した。苦悶の表情を見せる彼は、それほど……。
「もういいよ。君がどれだけ綴に執着しているのかはわかった。どうしてその感情が、憎しみに変わったのかはわからないままだけど……でも」
俺は間宮に近づくと、すれ違いざま肩に触れた。耳元に唇を近づける。
「俺はお前がやったことを許さない」
それだけ告げると、もう用は済んだ。
間宮をその場に残し、俺は教室に向かった。
向かう道すがら、綴のいる寮の方向を眺めた。
昨日の様子から変に悪化したりはしないだろうが、今日も生徒会は早めに終わらせよう。
それにしても、恋情が憎しみに変わるだなんて、間宮と綴の間に、俺の知らない何かがあったのだろうか。
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