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本当の気持ち
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いつのまにか午後の部が始まり、もうこうしてゆっくりしてもいられなくなってきた。
「冬樹君、落ち着いた?」
「はい……大丈夫です」
冬樹君は食べかけのお弁当にそのまま蓋をした。
赤い目元が痛々しく、彼が自らの意思で告白したことと言えどそれが良いことなのかわからなかった。
だが、これが冬樹君の本当の姿なのだろう。
誰もが息を飲む美少年で、愛想が良くて、要領も良くて、欠点など一切無いかのような彼の、心の暗い部分。
無線で連絡が届き、得点板を更新した。
ベランダに板を置き、また教室に入ると冬樹君はこれからの動きを確認していた。
「体育祭が終わったら、器具の片付けですね。綴さん、砂埃は大丈夫ですか? あまり大きなものでは無いので、僕一人でも行けますよ」
「ううん、一緒にやろうよ。せっかく二人で任された仕事なんだから」
「そう、ですね」
僅かに笑ってくれた冬樹君に安堵し、俺はベランダに出て体育祭を眺めた。
今年はいろんなことがあったから、結局あまり見ていない。
そういえば、京のことをほとんど忘れていた。午後の競技の数は午前より少ないが、京が出る種目は……。
「あっ、リレーがまだある!」
嬉しくて思わず声を上げてから、後ろに冬樹君がいたことに気がついて振り返った。顔に熱が集まるのがわかったが、冬樹君は微笑んでいるだけだった。
「綴さん」
「ん?」
やけに近くで声が聞こえたと思ってもう一度振り返ると、ベランダに出るギリギリのところに冬樹君は立っていた。
そして、勢いよく頭を下げる。直角に曲がった背中に、俺はギョッとした。
「ど、どうしたの!? 顔あげてよ!」
「本当に、すみませんでした」
その一言に、彼の謝罪の理由を全て悟る。
俺の記憶にはほとんど残らなかったこと。
絶対に自ら思い出そうとしないし、できないこと。
きっと俺は、日が経つにつれて冬樹君に話されたということさえ忘れるのだと思う。
それでも、冬樹君の謝罪を受けることは彼が犯した罪が許されることに繋がるのだろう。
俺は冬樹君を許したい。
「綴さんのことを酷く傷つけた。言ってはいけないことを言った! でも、おこがましいけど、僕はまだあなたのことが好きです。綴さんがもう僕の顔を見たくないと言うのであれば僕はもう綴さんの前に現れません。でも、まだ近くにいてあなたを好きでいていいなら、もう一度僕にチャンスをください」
俺は駆け出して冬樹君を抱きしめていた。
微かに青いその髪を撫で、自分の胸に押し付けるように抱きしめる。
「俺はもう全部許しているよ。冬樹君がしたこと、もう全部……。一人じゃ抱えきれない闇は俺も持つから、もう謝らなくていいよ」
冬樹君は肩を震わせてしゃくり上げた。
体を話してその顔を見ると、目にはいっぱいの涙を溜めながらも、絶対にそれをこぼすまいと堪えていた。
その子供らしい姿に、笑ってはいけないと思いつつ吹き出してしまう。
「ぶふっ……!」
「笑わないでください……。僕はもう綴さんのことが好きなただの男なので、泣かないように耐えてるんです」
「もうそれ、泣いてるにカウントされちゃうんじゃない?」
今にもダムは決壊しそうだ。
「まだ泣いてません! まだ溢れてないのでセーフです!」
そう言った直後にポロリと一粒零れ落ちた。
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