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金扇屋の陰間達
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下駄と靴を脱ぎ中に入って、長い廊下を歩く。
「僕がどれだけ揺すっても何しても起きないのです。挙句、他の兄様にはうるさいと言われてしまって……。朝の掃除がされてないと、かんとくふゆきとどきだと僕まで怒られてしまいます」
使い慣れない言葉に舌を絡ませる鶫にクスリと笑う。
「そうか、だから鶫が掃除をしていたんだね」
唇を尖らせたまま頷く鶫の頭を撫でてやると、気持ちいいのか手に頭を押し付けてきた。
「寛太には俺から言っておくよ。ちゃんとやらないと追い出すぞってね」
「そうしてやってください! 寛太は椿兄様に怒られても、空木兄様に怒られてもへらへらしている甘ったれなのです!」
「あ、甘ったれ……」
鶫から出てくるには少々過激な言葉に呆然とした。
廊下を歩いていくと、微かに美味しそうな匂いが漂ってきた。それが鼻腔をくすぐると、忘れていた空腹感が顔を出す。
共同の食事スペースの襖を開けると、台所には髪を高く結い上げた青年が立っていた。ちょうど鍋を混ぜているところだ。
「杜若兄様!! 柊兄様が帰ってきました!」
「えぇ!?」
「まずはおはようございますでしょ、鶫」
そうたしなめると、鶫はえへへと笑って「おはようございます」と言った。
着物の上からエプロン姿で台所に立っているのは、現在金扇屋に住み込みで暮らしている陰間の中で最年長の杜若兄様だ。背が高く男らしい体つきだが、その心根はとても優しい。
「ただいま戻りました。杜若兄様。兄様にも僕が帰ってくることは知らされてなかったんですか?」
杜若兄様はコンロの火を消すと、まだ呆然とした様子でおそるおそる近づいてきた。そして俺の頬をぷにっとつまんで「幻じゃない」とうわ言のように呟く。
「いや、今日帰ってくることは知っていたんだが……」
「あれ、知らされてましたっけ?」
「この間夕食のときにお父様がみんなに話していたじゃないか」
「あれー」
どうやら鶫は忘れていただけのようだった。
「柊が帰ってくることは知っていたが、何だろうか。先月帰ってこなかったからか現実味がない」
まだぼんやりとしている杜若兄様の手はしきりに俺の頬を揉んでいる。このままでは揉まれて落ちてしまいそうだ。
失礼のないように手を払うと、杜若兄様は「あっ」と切なげな声を出した。
「それよりも、僕まだ朝ごはんを食べていないんです。お腹が空いたので朝ごはんにしてもいいですか?」
「あ、あぁ、そうだな」
「僕もいただきますー!」
そうと決まると率先して動くのは鶫だ。茶碗に盛り付け運ぶ。俺はお茶や箸の準備をし、杜若兄様は優雅に椅子に座っていた。
「杜若兄様、その簪とても綺麗ですね」
不意に目に留まったのは、結い上げた髪を纏めるように挿さったアゲハ蝶の簪だった。小ぶりながら密な造りに、安物ではないようだ。
兄様はそれに手をやると微笑んだ。
「僕はもう年長者だし、みんなみたいに可愛らしく無いから似合わないと言ったんだけど、谷津様がどうしてもつけて欲しいと言ってね」
口ではそう言うが、恥ずかしそうに頬を染める兄様はまるで恋する乙女のようだ。きっと嫌ではないのだろう。
「とてもお似合いです」
「ありがとう」
「僕もそう思います!」
朝ごはんの準備をし終えた鶫も同意したところで、俺たちは席に座って食べ始めた。
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