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内と外
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昔から、椿とは相性が悪かった。せっかく同い年の同期だというのに、口を開けば喧嘩、喧嘩、喧嘩。俺は仲良くしたいと思っているが、椿はそうではないらしい。
椿の煽りを躱そうとしても、彼はいつも俺の癇に触ることを的確に言ってくるのでいつのまにか売り言葉に買い言葉だ。また、俺が放つ言葉も彼の癇に触るのかすぐに喧嘩口調でやってこられてしまう。
他の兄弟達からすれば見慣れた光景で、毎回呆れた顔で俺たちを眺めている。
ただ、たまにこうして白熱してしまうと杜若兄様や満作兄様が間に入ったり離れさせたりということがある。他の兄弟にも悪影響だからだ。
椿とは、引退の時期も一緒になるはずだ。ずっと一緒なのに、どうして歩み寄れないのだろう。
頭を冷やそうと階段を上っていると、もう一つ足音が聞こえることに気がついた。そして、きゅっと服の裾を引っ張られる。
振り返ると、泣き腫らした目の鶫が立っていた。
「鶫……」
鶫は黙って俺の後をついてきた。
他の陰間の部屋は共同部屋だが、俺はこの家の息子ということもあり1人部屋だった。
鶫を部屋に招くと、ベッドに座らせた。
箪笥から稽古用の着物を取り出す。
「ごめんね、言い争いしちゃって。やっぱり、僕は椿とは相性が悪いね」
「そんなこと……。元はと言えば、椿兄様が僕の……わ、悪口を、言ったから……」
言葉を引きつらせる鶫は、せっかく泣き止んだというのにまた目を潤ませだした。それに胸が痛む。
椿が言ったお暇とは、お客さんからの指名がないということだ。
陰間は忙しければ忙しいほど売れっ子だ。それで体調を崩しても、お暇になるよりは良い。
お暇だということは、芸者にとって恥だった。
「鶫はまだ陰間になって1年も経ってないだろ? お客さんは鶫の顔を知らないんだ、当たり前だよ」
「でも、椿兄様にはすぐに馴染みの方がついたんでしょ?」
「鶫、他人と自分を比較してはいけないよ。それで気持ちが落ち込むなら尚更ね」
水色の着物を身につけると、俺は髪を結った。前髪で額が隠れないようにして、後ろ髪は少し残し両サイドの髪を後ろでまとめる。そこを花の髪飾りで留めた。
「鶫もみんなみたいに早く髪がのびるといいね。そうしたら、綺麗な簪を買ってあげるよ」
「本当ですか!」
「うん。だから、いっぱいお稽古しようね」
鶫は少しだけ元気が戻ったようで、セミロングほどのふわふわした髪の毛を触った。
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