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内と外
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家までの帰り道、街に到着した時とは打って変わって、大通りには観光客の姿が見え始めていた。
その半分ほどが外国人である。何でも、わざわざ京都まで行かなくても東京で済ませられるからだとか。ちょっと残念な理由だ。
観光客の増加に伴い、交通量も増えていた。大通りは歩行者天国ではないのだが、生憎人が多いためいつのまにか人が真ん中を歩くようになる。タクシーや普通車が徒歩と同じ速度なのも当たり前の光景だった。
歩いていると、カメラを持った人が横やら前やらに現れて、道を塞ぐわけではないのだが俺たちの写真を撮っていく。
こうしたことは、髪型が統一されている女性の芸者のほうが圧倒的に起こりやすいのだが、陰間もまた男性でありながら髪を伸ばしてそれぞれが特徴的な髪型をしているので目立ちやすい。
普段着だと「花街通」の人に見つかるだけで済むが、夜に衣装を着ているときの人だかりと言ったら無い。無意識の通せんぼをくらうのが密かな悩みだ。
カメラにうんざりしている俺とは対照的に、鶫は楽しそうにあれやこれやを話していた。
高校に入学してからこの生活から離れた俺と、毎日経験している鶫とでは耐性のつき方が違うのだろう。それでも、花鶏なんかはカメラが嫌いそうだなと、ふと思った。
家に帰り、杜若、満作、石蕗兄様を除いた7人で昼食をとる。ちなみにその3人は外で食事しているそうだ。
こうして7人になったとき、鶴と花鶏は喋っているが俺を含め他の5人はほとんど喋らない。なぜならその中に空木兄様と椿という非常に厄介なコンビがいるからである。
まず、寛太と鶫は年下で幼いこともあり安易に口を開くと返り討ちにされてしまう。また俺は椿からかなり嫌われているので何を言っても雰囲気が悪くなってしまうのだ。
では鶴と花鶏はどうなのかとなるのだが、これに関しては鶴が勝つ。鶴と花鶏の会話に花が咲くと大体鶴の声が大きくなるのだが、それをいくら咎められても意に介さず、反対に笑いに変えてしまうため空木兄様も椿も二人に関しては口うるさくならない。
テレビから聞こえる虚しい笑い声と、鶴と花鶏の楽しそうな会話、そして食器の音に包まれた居間の空気は重い。
鶫と寛太が可哀想だが、俺が何か言うと火に油なので下手に喋れない。さっさと食べ終わるのが吉だ。
部屋に戻り三味線の手入れをして、午後の稽古に備えた。午後は家の和室にお師匠さんが来るので外に出る必要はない。
時間に余裕を持ち三味線を持って廊下を歩いていると、前方に雑巾がけしている寛太の姿があった。見た限り真面目にやっている。
横を通り過ぎようとしたときちらりとこちらを見られ、何か言葉を期待されているようだったが何も言わなかった。簡単に許してくれる兄だと思われるのは良くない。
が、こういうことをすると罪悪感に胸が締め付けられるのであまりしたくない。
午後の稽古も終えると、やっと自由時間である。仕事が日を跨ぐことの多い陰間はこの時間に仮眠をとる。
俺も例に漏れず、部屋のベッドにダイブするとスマホのアラームをセットして、すぐに眠りについた。
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