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再会
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明後日から、星(あかり)の修学旅行。
ついて行くのはこれで3度目。
今日は星(あかり)と10時に待ち合わせしてる。前から行きたがってた水族館に行って、帰りに旅行に役立つ雑貨がないか色々見て回って、欲しいものがあったら買う……
そんな感じのデートだ。
え、デートでしょ…。男同士でオカシイ、キモいなんて、いまどき猫でも言わないよ?
朝食を用意してくれた坂井さん(ハウスキーパーさん)は笑顔で
「あー、そこ行きましたよ。楽しかったな〜!
今度、ゆっくりその話しましょ!」
ってすごくうれしそうに言ってくれた。
「どのへんがよかったですか?」
聞いてみたら
「ふふふ、行ってみてのお楽しみ!
松坂さんちの星(あかり)くんと行くんでしょ…?イイなあ!イケメン2人…!!
楽しんできてくださいね」
……って…。
一昨年、新しく出来た水族館は完成前から星(あかり)が行きたがってたんだけど、去年までは混みすぎでなかなか行けなかった。
今年に入ってやっと客足が落ち着いてきたみたいで、予約のチケットが2枚取れた。
9時40分に家を出て、10分ほど早く着いた。
駅の改札入り口で、スマホを取り出してSNSを流し見しながら星(あかり)を待ってた。
星(あかり)はスマホを持ってないけど時間にはキッチリしてる。大丈夫、あと5分もすれば会えるはず…。
気になるトピックを見つけ、タップして詳細を読もうとしたときだった。
「あーーずさっ!」
…ん?…この声……は……
振り向くと20メートルくらい先の方に花江千秋がいて、ブンブン手を振ってた。
千秋は中学卒業後、俺とは違う高校に進学した。
背は低かったけど卒業する少し前からグイグイ伸びてた。今、向こうから手を振ってくる感じだと170超えてる感じだった。
え、俺?……うん、ハーフだからね……背はだいぶ高いよ…180軽く超えてる。
それにしても千秋、外で見ると雰囲気違う…。
背が高くなってちょっと顔立ちがスッキリした…?………垢抜けた…、のかな…
千秋は大げさに手を振ってから、人波をすり抜けまっすぐ俺のところまでやって来た。
「梓、好きだ…!会いたかった〜!」
笑いながらそんな軽口を言ってガシッと抱き着いてくる。違う学校になってもノリは変わらず。楽しい。ってか小学生か!
でもここは駅の中、小学校じゃない。改札の前だ。
周りがめっちゃガン見してくるーー!!
「あーハイハイ、きみとは待ち合わせしてないからねー」
背中ポンポンしてから離そうとすると、一回ぎゅっとして離れながら
「そーだっけ?
……な、ここで何してんの。俺と遊ぼうぜ」
とナンパするみたいに言う。
「うっわ。チャラ男か!」
千秋流の冗談を受け流す。するとニヤッと笑った千秋は
「褒めても何も出ねーよ」
「心配すンな、褒めてねえ」
「ははっ…!褒めてもイイのに」
「え、何でいるの?買い物?」
たずねると千秋は目を少し見開いて俺を手招きし、
「……内緒だぜ」
と声を落とし、口もとを片手で隠すようにして内緒話する仕草を見せた。
何だろ…?
人に聞かれるとまずい話でもするかのように、キョロキョロしてから身を寄せて来る千秋につられ、思わず耳をそばだてて
「何…、どうしたの」
と小声で聞き返すと千秋は思わぬことを口走った。
「……追われてンだ…」
「え…?なんで、」
どういうこと…?
……てか、誰に?
そう聞きかけたところで後ろから誰かにポンと肩を叩かれた。
「…あ。……松坂先輩……」
先に気付いた千秋が俺越しに視線を投げて呟いた。
振り返ると、今来たらしい、星(あかり)がにっこり笑って立ってた。今日も可愛い。カッコいい。
「待たせてごめんね…?あっくん」
と言って笑った星(あかり)は、千秋を見て
「…あれ。花見くん。久しぶりだな」
「花江です、先輩。…お久しぶりです」
千秋が星(あかり)に向かってペコッと頭を下げた。見た目は少しチャラい感じになってても、やっぱり礼儀正しいんだよな。
星(あかり)は頷きながら
「あー花井くんだっけ。
どうしたの、こんなところで。……あれ。もしかして俺らと一緒に行く予定だった…?」
星(あかり)は首を傾げながら、無邪気そうに俺に話を振ってきた。
星(あかり)のやつ天然かよ……また名前間違えてるんだけど……。可愛すぎて笑える。
…てゆーか、待って……
なんかコレ、めっちゃデジャブ感…………
「や、千秋は呼んでないよ」
答えると星(あかり)はパッと顔を曇らせた。
「うわ、悪い、花沢くん、勘違いしちゃった」
「花江だよ、星(あかり)」
「あっ…」
流石に何度も間違えすぎだし、軽くたしなめたら星(あかり)はウワッという顔をして赤くなった。
だけど当の千秋はそれほど気にしてないらしく、
「どこ行くの?梓」
むしろそっちに食いついてきた。
「あーーー……水族館。
星(あかり)が行きたがっててさ。
……ね?星(あかり)」
「うん。
チアキも行く?水族館。……暇だったらさ」
「えっ?……あ、…っあーー…………うーん。
……どうしよう、…か、な……」
星(あかり)がここで急に名前呼びし始めた。
名字を覚えられなかったからかもしれないけど、突然なので千秋はかなり面食らったらしい……。俺の方を見て、星(あかり)を見て、また俺を見た。
周りは行き交う人の多さでザワザワしていた。
……と言うより俺、星(あかり)、千秋のデカい男子高校生3人が改札前でたむろして何やら立ち話しているから、何となく目立つのか邪魔なのか……、
とにかくここ離れたほうが良さそうだな…
「……、ね、ちょっとさ、…お茶しない?」
喉も渇いたしね。
・
・
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3人でスタ◯に移動した。
まだ開店したばかりで、それほど混んでいなく座席はすぐに確保出来た。
3人とも期間限定のフラペチーノ系を注文したけど、俺と星(あかり)はショート、千秋だけトールサイズ。
ガンガン冷房が効いたフロアは身体の芯から冷えてしまいそうで、正直千秋が全部飲みきれるか………微妙だな…。
「……へえ、先輩、明後日から修学旅行なんですか」
「そっ」
俺と星(あかり)は並んで、千秋は俺の向かいの席に座った。
星(あかり)が返事をすると千秋はニコッと星(あかり)に笑いかけ、その流れで俺をじっと見た。
心なしか、目が笑ってない。
「……で、梓はそれ、ついてくの?」
……何で分かったんだろ。
「うん、まあ」
「……またかよ」
……ん?なに、今の…… なんかトゲがあったような…
「星(あかり)が心配だから仕方ないだろ」
「心配でも普通、ついては行かないだろ」
そう言われてみれば、まあ……
だけどそりゃ無理だ。だって星(あかり)は……
「俺は優秀だから一年早く行くのを許されてンの」
「自分で言うかよ」
嘘は、言ってない…。
このために去年星(あかり)が高校に入学したときからずっと働きかけていたんだ。
だから星(あかり)が2年になったときの修学旅行への俺の『同行』は許可された。
まるっと1年がかりだったけどね。
俺からしてみればまぁ…それは当然かな。
だって学校の責任者側からしてみれば、在校生から怪我人や死者を出すわけにも、犯罪者を出すわけにもいかないでしょ…。
何より、このウィルスは疫病級でありながらこの国では罹患者の数も感染経路も一般人にはほとんどと言っていいほど知られていない。
ていうか、患者数は確実に増えているのに、旭さんたちが高校生だった時代に一度流行したっきり終息した随分昔の伝染病……、って扱いしかされてないのがむしろ驚きなんだけど………
……分からない。
まあ、とにかくそういうわけなので、星(あかり)が『何かの病気』に生まれた時から『感染』しているだけでなくすでに『発症』してしまっている事実は、周りの生徒たちにはもちろん先生たちにも秘匿必須。
当然、他校生の千秋にも話すわけにはいかない。
そうだろ?
だいたい、星(あかり)がれっきとした吸血鬼なのを証明して見せるためとはいえ、高校の偉い人たちの前で星(あかり)に血を吸われるためにこの1年、いったい何回出向いたことか……
星(あかり)だって、そうそうすぐに牙とか見せれるわけじゃないしね。苦労したよ?
俺の血を吸う姿を実際見せる日に合わせてストレスを溜めに溜めたりしたし。
なんなら手を繋いで登下校する日を調整してまで、要は2人でがんばって勝ち取った『同行』なんだ。
え、なんで手を繋いで登下校する日を調整するのかって?
……、あーーー………い、…言いにくいんだけどアレだよホラ、………星(あかり)って俺と手を繋ぐと優しい気持ちになっちゃうらしくて。
え、あっだっ!だから…っ、星(あかり)がお、俺のことが好きだからじゃん…!?
えっ俺!?…す、好きだよ。…っあー本人には言ってないけどそれくらい分かるでしょ…っ………
ふう………。
とにかくそんなこんなの裏事情は千秋には到底話せない。
けど冗談めかしたからか、千秋は全然納得してなかった。
「……先輩、」
「ん?」
「ちょっと梓借ります」
「なんで?」
千秋は顎を上げてちょっとカウンター向こうの方に向けながら
「あの棚に2つ、並んでるのあるでしょ…」
つられてそっちを見てみると、なるほどスタッフカウンターの横に設置されている造り付けの棚に色んなタンブラーやカップ、その他スタ◯グッズがズラッと並んでた。
「んー…、あれかな?…あの白いのと黒っぽいやつ」
星(あかり)が棚に置いてある、ちょうどお揃いよろしく並んでるタンブラーを見ながらそう相槌を打つと、千秋はそれです、と頷いた。
「どっち買おうか迷ってンですよね…
ちょっと梓と一緒に見て来たいんですけどイイですか?」
「1個?」
「1個」
「イイよ。早くな」
分かってます、と言って千秋は俺に目を向け、ほんのわずか顎を揺らした。
ちょっと顔貸せよ……的な感じだ。
先に立って歩く千秋について棚の前まで移動すると、千秋は並べてあったタンブラーを手に取った。
それから星(あかり)が座ってる位置に対して斜めに背中を向けて立ちながら、俺を見上げる仕草をした。
この位置取りだと星(あかり)からは俺と千秋の姿は見えづらい。それでいて見ようとすれば見える感じで微妙な感じ…。
千秋は口を大きく開けて動かしていながら驚くほど小声で言った。
「……あの人さ、……ホント、お前のなんなの。
お前、…あの人と一緒にいたらいつか、
……死ぬんじゃないの……?」
腹話術みたいだった。
----
(続く)
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