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熱**
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プハッと笑った。
「ンなの、誰だっていつかそーなるじゃん…千秋ってホント面白いな」
目の前のタンブラーを手に取って千秋にほら、と見せながら
「……ね、1個だけ買うならコレはどう?オシャレだよ」
と水を向けると千秋はふう、とため息をついた。
タンブラーを持っている方の腕を掴んでグッと引き付けた。
「………お前がさ。
…もー随分前から星(あかり)さんが好きなのは知ってるよ……
でも俺だってお前が好きだ…。………もう知ってるんだろ……?」
どきっとした。表情を変えずにチラリと星(あかり)が待つ席の方に視線を流した。
吸血鬼は耳聡い。
耳だけじゃなく、視覚、嗅覚、五感すべてが。
俺がひとつだけ星(あかり)に対して警戒しているのは
『吸血鬼は特別に思う相手の全てをどんな場所、どんな状況でも半径2キロ以内の範囲なら特定できる』
その一点だった。
だから俺のことを好きな星(あかり)に、……お互いの親にまでそれが暴露され、確定しているその気持ちに、俺は決して応えられない。
どんなに好きでも、俺からは伝えられない。
星(あかり)が俺を好きだとわかったあのときに、もう俺からは告白できない。それが確定してしまった。
……もし伝えたらその瞬間から俺のプライバシーは星(あかり)に全て筒抜けだ……
もちろん、星(あかり)のことは好きだよ。
その気持ちは多分一生変わらないし、星(あかり)がいない人生なんて終わってる。
だけどヒトじゃない……
それは真実、……事実だ。
星(あかり)が好きだと思うほど、俺は立ち止まってしまう。
好きだから何もかもさらけ出しても別にいいやと思うこともあるけど、それとこれとは話が違う。
ただでさえ、俺と手を繋ぐこと、触れていること、一緒にいることが星(あかり)の発作を相当な頻度で抑制してる。
このうえ気持ちを伝えて恋人同士になったりしたら…
……そこから先は俺の行動次第で、星(あかり)の精神状態は今まで以上に大きく左右されるよね…
目に見えてるでしょ……
そうなったら俺は文字どおり『自由』を失う。
星(あかり)の『奴隷』にさえなってしまうかもしれない。
それは現実的とは言えない。
これは俺の予想だけど、吸血鬼が相手を死なせることがあるのはおそらく、こういうところも関係してるんじゃないか……って……
俺は星(あかり)には、何があっても好きとは言えない。
たとえ、どんなに苦しくても。
たとえ何度、星(あかり)と身体を重ね、愛を交わす時間を一緒に過ごしているとしても。
一生、両思いなのに片思い。
…………ひどくね?
……てゆーか、待って。
ここは店の中、スタ◯の店内だよね。
千秋、いきなり何、言い出してんの……
俺の肩にまるで顎をのせるかのようにくっついて、千秋は小声で話した。
「お前が好きだよ。……心配だから言ってんの。……学校離れたからずっと見てられなくなったし…」
普段、星(あかり)に対しては松坂先輩、と呼ぶ千秋が俺には『星(あかり)さん』と言い、互いに名前呼びにしてる俺を『お前』とか言うのに少し、……いやかなり戸惑った。
「心配、しないでも、」
「俺は転校したって別にいい。
…お前を守れるなら、相手がお前の大事な星(あかり)さんだろうと全然戦えンだよ」
千秋が転校…?ウチに…?
星(あかり)と戦う…?
身じろぎしようとするとさらにくっと腕を引っ張られた。
まるで抱き合うみたいな距離……。
テーブル席からこっち側を向いている女の子たちの視線が少し気になってきた……。
……目立ってる。…よね、やっぱ……
「大げさだな…、旅行についてくだけだって」
「だな。その旅行が、だから心配なんだって。
…………お前さ、中学の時もついてっただろ。
俺が何も知らないとか思ってる?」
「え…?」
「…………それ、そこ置いて。ちょっと来い」
千秋はそう言うと俺がタンブラー持っている手を掴んだまま、棚に押し付けようとした。
「何…、」
「いーから」
低い声。
有無を言わせる気はなさそうだな…
仕方なく、タンブラーを置いてついて行った。行く先はトイレだった。男女共用の。
トイレ内はちょっとしたパウダールーム付きで、外ドアを開けて入るとそれに鍵がついていた。
洗面台と鏡があって、それを横目にした右側と左側に向かい合って2つ個室があり、正面奥がベビーちゃんのためのオムツ交換台がついた広めの個室になっていた。
千秋は俺を先に入らせ、後ろから入って鍵を閉めた。
「……!誰も入って来れねーだろ」
「だからそうしたんだろ。……すぐ済ますよ」
「………何だよ」
「うん」
トン、と肩を押された。ちょっとよろけたところをふんわり包むように支えられて、気が付いたらキスされていた。
「っ、……ぶ、は…っ…」
腕を、左右、両脇の下から回されて、後ろから後頭部をがっしりホールドされ、首を動かすこともできない。
千秋は若干俺を見上げる感じでゆっくり、優しく唇をつけてくる……
胸に、千秋の胸が、身体が触れてる。熱い。
……… 熱い…… ?
それは星(あかり)の低いそれとは全然、…全然違っていた。
かっと顔が熱くなった。
星(あかり)と違う熱を持つ、生身の、本物のヒトの身体。
キスをして、お互いの唇と舌を貪りあって、肌に触れて、……その先にある行為を俺はもう全部知ってた。
その全てが多分、千秋は星(あかり)とは全然違う。
することはだいたい同じだとしても。
千秋は俺の頭を後頭部からがっちり固定してる。本格的な、誰にも言い逃れできないキスだった。
唇ではむはむ促され、うっすら口を開けるともうその隙間から舌を差し入れられる。
舌先でちょんとつつかれて、反応したところで根もとから絡まる感覚…、
温かいのがわかった。
「んぅ…っ、ふ……っ…」
鼻から抜けていく甘い声……、
何だよ俺………。星(あかり)じゃなくても気持ちいんじゃん……
自分に呆れた。
熱を孕んだ千秋の舌に口のなかを隙間なく舐められてぞくんとした。
「…好きだよ………、梓…っ」
「………黙れ、よ……」
「……はっ……好き…」
少し掠れた声で何度も好き、とささやきながら、千秋は角度を変えてくる。
舌と唇で逃げようとしてもすぐに追いついてきて、粘膜全て舌を擦り付けられる。その生身の熱さに頭がクラクラしてきた。
熱い。熱い。……熱い。
なんかもうどうでもいい。…気持ちいい……
千秋は俺と同じ、普通のヒト、それだった。
温かな粘膜同士が絡まるその感じは初めてで、くちゅくちゅ、濡れた音がトイレの中でやけに大きく感じた。
口の端から唾液がにじんで、少しずつ下へと伝い落ちていくから口を離して拭いたいけど、髪に千秋の指が差し入れられ固くホールドされているから全然自由にならない。
「……な……好き…好き………俺にしとけよ……梓……」
好きって言葉を何度も口にし、求めてくる千秋………こんな千秋は見たことなかった。
低めの、脳を蕩かすような甘い声で何度も何度も……
…俺も、そんな風に言えたらどんなに………
「…あずさ、…はっぁ……好きだ、よ……」
もう一回、名前を呼ばれた。そのときだった。頭の中でブチっと何か音がした。
一瞬で俺は千秋の頭を両側からがっと掴んだ。唇を吸って、少し食(は)んで、舌を思いきり中にねじ込んだ。
「んッ!?……は、ぁッ……んんっ……!」
今度は千秋が声を漏らす番だった、俺は夢中で、やり返す気で、千秋の温かくて熱い口の中を思いきり蹂躙した。
「…ふっ……んッぁ、は、……はげし…ッ…」
「………ばーか…求めてたくせに……」
「っは……」
こくんと素直に頷く千秋、……瞬間、ゾクンと背中が粟立った。
千秋の口のなか、歯列を丁寧になぞった。意外に綺麗な歯並びでホント、ビックリした。星(あかり)みたいな歯なんか一個もない、普通のヒトの歯並びだった。頬の内側の粘膜のありえない熱さ、舌の根もとが溶けてるみたいなありえない温度、鼻から抜けて感じる、ありえない熱い吐息………全部、全部普通のヒトのそれなんだろう……普通のヒトの。…いや違う。全部、千秋だ。
最後に舌をきつく吸い、ようやく唇を離すと千秋は真っ赤に上気した顔で、ぐちゃぐちゃな涙目で俺を見つめた。不本意な情事を強いられた後みたいな表情だった。
「なっ、んで…」
「知らねえ。……自分が仕向けたんだろ。
欲しかったんだろ?……俺にキスして欲しかったんだろ」
「っちが……」
「違わないだろ。………千秋」
千秋の身体をぎゅっと強く抱き締めた。耳もとに唇を寄せ、その耳に軽く歯を立ててやる。
「俺のこと、そんなに好きだったんだ…?千秋」
「………」
「……千秋が言うとおり、俺は星(あかり)といたら死ぬかもね。
だけど、そうだな……また会ったらキスしてやる。
……それでいい?」
耳たぶを舌先でなぞってやりながらそう聞いた。
よくないのは分かってる。
だけど俺は星(あかり)しか見てない。
千秋が好きでいてくれてるのは中学の、……いや本当は小学校の頃から薄々、てゆうか知ってた。
でも友だちとしか思えなかったし、どうしても、俺は…
千秋は返事をしなかった。
しなかったのか、出来ないのか……、
どっちにしろ、どうでもいい。
ちゅっと音を立てて千秋の耳から唇を離し、解放した。そう、わざとやった。
まだよろけてフラフラしてるのを手伝って立たせてやってから、個室に入りざま
「先に行ってて。……俺、後で戻るから、星(あかり)にそう言っといて。
…………タンブラー買うの、忘れんなよ」
釘を刺した。
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(続く)
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