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人目につこうとつくまいと**
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大っぴらに人目につくような場所じゃなかった。
それでも水族館の中、公共の施設内のちょっとした休憩場所ではある。
歩き疲れた子ども連れのファミリーや、デート中のカップルが雑踏を逃れて少しの間ひと休みするのに最適化された空間は、座り心地の良いソファー調の椅子だとか、高い丸テーブルに固定されているチェアーとか、飲み物やアイスの自販機があったりしてとても気が利いてる。
いつ、突然誰かが来てもおかしくない。
そんな場所でもあった。
だからこんな場所で、……そもそも『こんな』場所で『こんな』キスをしちゃうこと自体、どうかしてるとしか言いようがなかった…。
しかも男同士で……
もしここにいま、ちびっ子とかが来たら真っ先に
「ママーー!見てー!このひとたち、男同士でチューしてるーーー!」
………アウトだよね。
とはいえ案内板どおりに歩くなら、順路側からはここは死角になってる。
よほどその気で探さない限り、そうそう目につくことはないと思うけど……
星(あかり)の腕を引いて、肩からぐっと抱き寄せ強引にキスをし始めたときには、すでにチラチラ人目を感じてた。
多分、こっちに来て椅子に座って、ひと休みしたいんだろうな……
だけど
「んんっ…!は、んっぅ、ん…」
「っ……」
かまわず星(あかり)の口のなかに舌を入れた。
吸血鬼だからなのかどうなのか、星(あかり)は口のなかが、弱い…。
俺とはもう何度もしているキスなのに、濡れた舌で粘膜を擦り上げるとそれだけで星(あかり)は息を弾ませた。
「…ん、ふ、……はあ、ンッ、ん……」
気持ちいいと感じているのが分かる…
鼻から抜ける甘い吐息に、胸がぎゅうっと音を立てた。……、…興奮、した。
「……気持ちい?…星(あかり)…」
問いかけると星(あかり)はこくこく、2回頷いた。角度を変えていっそう激しいキスをした。
薄めに瞼を開いて涙いっぱいの瞳で見てくる星(あかり)を見たらそれだけで下半身がじんと熱を持ってくる……たまらない。
唇の端から唾液がにじんだ。濡れてる唇をはむはむして、俺の舌が星(あかり)の口のなかで自在に粘膜を這い回る……その動きにぎゅっと瞳を閉じて感じている星(あかり)、ハァ、ハァ、熱い吐息を重ねて必死に酸素を探してる……俺も星(あかり)の舌を感じて、頭の奥がじーんと痺れ……なんだろうめちゃくちゃ気持ちいい……
人目があるところだとこういうの集中できないかもと思っていたけど、そんなことはなかった。
星(あかり)はおずおずと俺の背中に手を回してきた。
背中に感じる、どちらかといえば冷たい指先と爪の感触に、心臓が居住まいを正したみたいにものすごく本気で感じた。星(あかり)の髪がくしゅくしゅになるぐらい両手の指を差し入れて頭を包み込み、俺は本格的に口づけた。濡れた舌をねっとりと擦り合わせ、歯の裏側をいつもより増して丁寧に一個一個、なぞっていく……
「はぁッ、…ん、ふっ…ぁ、……んぅ……ッ…」
星(あかり)が漏らす甘い吐息、時折我慢できないのか、小さく切なげな掠れた声、背中でシャツを握る指、俺の舌に応えるため震える舌先、全部が全力で俺を煽った。俺は思い出した、星(あかり)はあの歯が1番弱い…… …、
「……んァ、あ、……っ…ァ!
そ、こ……!ァあッ…、……っンッ……」
「星(あかり)……もっと口、あけて…」
「ッは…ぁっ、んッ……んあ、…っ……」
それが1番大きく、1番弱い星(あかり)の急所だった。大きく背中をしならせてあえぐのを引き戻し、舌でわざと試すようにゆっくりその形をなぞりあげると星(あかり)の腰が砕けたみたいにくにゃんとなった。急に力が抜けてしまったように全身を預けてくる星(あかり)にますます欲情を掻き立てられ、無意識に星(あかり)の下半身に手をかけたそのとき、
「……お、願……っ、…あずさ…………ッ、も、…、っ、…」
名前を呼ばれ、下半身に伸ばした手を弱く掴まれ、制されてハッとした。
「……………あ、…ッ……ごめん……」
パッと身体を離しながら、腕の中で息を弾ませている星(あかり)を助け起こした。
星(あかり)はまだ全然力が入らないみたいで、顔を真っ赤にさせ、恥ずかしいのか少しうつむいてる。
「………行こ…」
ポツッとそう言ってフラフラ立ち上がろうとした。腰から下が力抜けてて、膝から崩れ落ちかけるのをあわてて支えた。すると星(あかり)はハッと笑い、
「……カッコ、悪いよな………俺、年下相手にこんな、」
自嘲して俺の腕から逃れようとした。
「別に……カッコ悪くないよ」
「悪いだろ……花井くんに嫉妬して、……取り乱して…」
「………え。嫉妬、した、…の…?
…なんで………?」
……てゆーかまた名前、微妙に間違えてるし……
嫉妬したのか。……嫉妬、……したんだ…星(あかり)……
不謹慎だとは思う。
だけどこのとき俺は口もとが自然緩んでしまうのを我慢できなく、片手で覆って誤魔化した。
星(あかり)はそのまま自販機の前まで歩いて行って、俺に背中を向けながら小さな声でボソボソ話した。
「……スタ◯で、花井くんがトイレから戻ってきたとき、」
「……花江な、」
「あ、うん。……………花江くんから梓の匂いがした」
吸血鬼は、…鼻が、利く…………
あー…… ……そう、か………
黙って聞いた。
「…あのコの口から……、梓の、………、その、…甘い、匂いが……
…キス、………したんだろ……だよな?梓…」
「…………!」
自販機は向こう側の順路を歩いている人たちから丸見えになる位置にあった。
俺は立ち上がって星(あかり)のそばまで行き、アプリを立ち上げ、自販機のボタンを押してスマホをかざした。
……ゴトン…… ……
どう釈明するべきか迷った。
自販機の取り出し口に落ちてきた飲み物をかがんで手を入れて取り出しながら
「ちあ、………は、花江くんとは別に、」
言い換えて弁明しようとした。
飲み物を星(あかり)に手渡し、もう一本買うためにスマホをいじりながら頭の中はフル回転だった。
「…別に……?」
「別に、好きとかそういうんじゃない。あのときはちあ、…花江くんから急にキスされて……」
カッコ悪いのは俺の方だった。
責任を全部千秋に押し付ける気かよ……
……もう少しマシな言い訳を、
ぐるぐる考えていると星(あかり)が大きくため息を吐いた。
俺が渡した飲み物をポケットに突っ込んで俺に振り向き、正面から対峙した。
傷付いたような表情、……顔色は蒼白だった。
「……あのさ、俺、梓が誰かに取られるのだけは死ぬほど嫌だ…
心、狭いんだよな…
梓が友だちが必要でも、俺には梓だけがいればよくて」
「…知ってるよ…」
星(あかり)は弱く首を横に振った。
さっきから『あっくん』と呼ばない星(あかり)……青白いをとっくに通り越して血の通ってない人形のような顔色……
『俺』を欲してる。
「星(あかり)…」
「……」
手を握った。氷のように冷えていた。
「…………吸う…?」
少し行った先に、パントリーの表示板が見えてた。
トイレだと人が入ってくるだろうけど、こんな場所でパントリーを利用する人はそれほど多くなさそう。
星(あかり)の気持ちを落ち着かせるには、それしかないように思えた。
「……あっちに行こ…」
星(あかり)の手を握ったまま、パントリーに連れて行った。
氷よりも、雪よりも冷え切ったその手が愛しくて胸が詰まった。星(あかり)が好き、どこへ持って行きようもないこの気持ちがいっそのこと繋いだ手から伝わればいいのにと強く、強く、強く思った。
少し離れた場所から千秋が見ていたが、全く気付いていなかった。
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(続く/次回、星(あかり)視点です)
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