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侮れない男**【星(あかり)視点】
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あっくんの背中に手を回した。
外出中にこんな本格的なキスをして、あっくんはここをどこだと思ってるんだろ…。
舌同士、絡ませて唾液を混じり合わせながら歯列を確かめるみたいに一本一本丁寧になぞっていく……
「はぁッ、…ん、ふっ…ぁ、……んぅ……ッ…」
ただでさえ向こうの方でこっちを見ている人がいる…それが気になって仕方ない。
頭の両側を大きな手で包み込まれて身動きするのもつらく、うっすら目を開けて確かめたあっくんの表情は、息が出来ないくらい悩ましい色気がダダ漏れ……
あっくんの舌は容赦なく俺の犬歯…、俺が吸血鬼であることを一番如実に示すあの歯に襲いかかってきた。
「……んァ、あ、……っ…ァ!
そ、こ……!ァあッ…、……っンッ……」
「星(あかり)……もっと口、あけて…」
「ッは…ぁっ、んッ……んあ、…っ……」
強烈な快感が脳髄を駆け抜け、大きく背中をしならせてあえいだ…。舌でわざと試すようにゆっくり形をなぞられるとたまらなくて、全身に力が入らない。あっくんの腕の中に俺はいとも簡単に落ちた。不意に下半身がほわっとして、あ、…ぁ!?ちょっ…、そこは、
「……お、願……っ、…あずさ…………ッ、も、…、っ、…」
ここじゃだめ、キスだけでもヤバいのに…!
あっくんの手を掴んで、やめるように頼んだ。
「……………あ、…ッ……ごめん……」
あっくんは無意識にしたことだったみたい。
…危なかった……
さすがに恥ずかしくてあっくんの顔が見れなく、俺はフラフラ立ち上がった。
とにかくこの場所は出よう、……人が、見てる……
「………行こ…」
腰から下が力抜けてて、膝から崩れ落ちかけるのをあっくんが支えてくれた。情けない。
カッコ悪いな、俺……、そう言うとあっくんはカッコ悪くないと慰めを言ってくれたけど、嫉妬してこんな風に取り乱したのは失態としか思えない。
自販機の前まで行き、向こうからチラチラ見てくる視線に対してジュースをどれか選ぶフリして誤魔化しながら切り出した。
スタ◯でトイレから戻ってきた花江千秋からあっくんの匂いがしたこと…
甘くて極上の、ものすごく蕩けるようなその匂い…、俺にとって最上級の、あっくんの匂いが。
それも顔、……口周りから濃厚に……
この話をするのは自分が本当に『人外』なのだとあっくんにはっきりと分からしめるみたいで、本当は嫌で仕方なかった。
俺が吸血鬼であることは俺のアイデンティティーに関わる重要事項だけど、あっくんにそれを正面から突き付けるのは出来れば避けていたかった。
血を吸わせてもらうだけでも充分なのに、これ以上あっくんに俺が『普通』の『人間』ではないことを披瀝するなんて……
そう、本当は俺自身が嫌なんだ。
あっくんに、ハッキリと吸血鬼の烙印を押され、その心が遠く離れていくことが怖くて、怖くて仕方ない。
あっくんが、……俺が吸血鬼だというその事実を認めることを心のどこかで怖がっていて、気持ちを伝えてこないこと、
…それは、あっくんのなかではまだ俺が人間ではないことを許容出来ていない、人間かもしれないと思いたがってることであって、そうすることで愛されるのならわざわざ認めさせないでいい。
俺と同じ時間を過ごし、こうして熱烈なキスをして、血をくれてそれで抱いてくれる、…それがあっくんの俺への気持ちだとしたら、
……このままで愛し合えるなら、いっそこのままでいたい。
だって俺は、俺自身が何者だろうと心底あっくんが好きだから。
人間だとか、吸血鬼だとか関係なしに、俺にはあっくんしかいないから……
だけど花江千秋の存在が、俺をどこまでも脅かす……
普通の生身の人間が俺には、いま一番怖い。
「…あのコの口から……、梓の、………、その、…甘い、匂いが……
…キス、………したんだろ……だよな?梓…」
「…………!」
あっくんが俺の隣に立ってアプリを立ち上げ、自販機のボタンを押してスマホをかざした。
……ゴトン…… ……
かがんで自販機の取り出し口に手を入れ、落ちてきた飲み物を取り出しながら
「ちあ、………は、花江くんとは別に、」
言い換えた…
俺がさっき、名前のことを咎めたから…
別に、と濁されると納得いかない。
手渡されたスポーツドリンクを受け取りながら聞き返すとあっくんは続けて言った。
「別に、好きとかそういうんじゃない。あのときはちあ、…花江くんから急にキスされて……」
あー……そういうことか…
心のどこかで納得する自分がいた。
俺が冷静でいられないのは、あっくんと千秋があまりにも俺の予想を超えて親密だからだ…。
その親密さはおそらくあっくんの性格を千秋が正確に把握してるから。
あっくんって、見た目はやたら綺麗なくせにやられたらやり返す…、そんなタイプ……
良くも悪くも負けず嫌い。
ただ愛でてるだけじゃ、小さい頃から愛でられ慣れてるあっくんには多分全く刺さらない。
あっくんは相手と勝ち負けを繰り返すうちに遊びながらだんだんと心を開く…、そんな子だった。
先にキスを仕掛けたのは千秋か…
それであっくんの……、何か相手を負かしたい気持ちに火がついたんだろう……
千秋は巧い……やっぱりちょっと侮れない男だ。
何となくカラクリが見えた俺は大きくため息を吐いた。あっくんの方を向き、真正面から話した。
「……あのさ、俺、梓が誰かに取られるのだけは死ぬほど嫌だ…
心、狭いんだよな…
梓が友だちが必要でも、俺には梓だけがいればよくて」
「…知ってるよ…」
首を横に振った。あっくんは、……梓は全然わかってないだろ…
20歳前後で俺の身体はまた変化を遂げ、そこから先は50年に1歳程度しか歳を取らなくなる…
それはあっくんのパパが言っていた研究が合っていればの話だけど、そんなに間違ってないと思う。
俺のように、吸血鬼ベビーとして生まれた子どもが成人…、…いや成体となった後、どのくらい寿命があるのかはまだ解明されていない。
だけどそれは俺が普通の人より長く長く生きることを少なくとも否定しない。
60年、いやもしかしたら80年後、あっくんがこの世を去るときでさえ俺はまだハタチそこそこな若者に見えるんだろう。
それでも俺の精神年齢はそのときあっくんよりたった1つ上なんだ。
あっくんを失った後も俺は死ぬことも出来ず、だからって『その歳で』『恋愛』など出来やしない。
そこから先は長く、長い『孤独』だけが肉体の滅びを待ち侘びる俺に遠く寄り添ってくれるのだろう……
「星(あかり)…」
「……」
あっくんが俺の手を引いた。
温かくて大きなあっくんの手……
大型の猫科の猛獣がまるで擬人化したみたいなあっくん……
……美しく大らかで可愛くて、時にどう猛な……
「…………吸う…?」
……この状況で、とても血を吸いたい気分にはなれない……
けれどあっくんが俺を安心させたくて、考えあぐねた末に提案しているのだけは分かった。
少し行った先に、パントリーの表示板が見えてたのを覚えていた。
「……あっちに行こ…」
「…………」
俺の返事を待たないであっくんは手を握ってきた。黙っていたけどそのまま手を引かれ、連れられるままにパントリーへと2人で歩いた。
反対側の方に、千秋に似ている人が一瞬見えた気がしたけれど……、あっくんが何も言わないから人違いかもしれない。
パントリーの中に入ると、シンク横のスペースに置かれた簡易チェアに座ったあっくんは、まず立っている俺に向かって両腕を伸ばした。
年端のいかない子どもが親に抱っこを強請るみたいな姿勢…
かがんでやると俺の首にその両腕を巻きつけるようにされ、引きつけられてそっと唇が重なった…。
ははっ……
…しょっぱいな…
ちゅっ、ちゅっ、軽く2、3度ついばむみたいにキスしてくるあっくん……
舌を入れてこないから、緊張してるのが丸わかりだよ……
俺はあっくんの唇から頬へ、そこから顎の線をたどって首筋へとキスの軌跡を描き、内頸静脈のすぐ上を舌でゆっくりなぞってから歯を立ててぐっと力を込めた。
「………っ…!」
少し位置がズレたらしくあっくんの全身が一瞬だけど硬直した。痛かったんだな……ごめん…
だけど口の中に広がるその味は温かくて、とても甘美で、舌が……脳が蕩けるくらい甘くて、極上で最高だった。
美味しい…… 美味しい
美味しいよ…あっくん……
ごくっ、ごくっ …… ……
あっくんの全身から、少しずつ力が抜けていく……
痛いのをこらえているらしい、はぁ、はぁ…っ…と気怠げに漏らすその吐息がものすごく色っぽく聞こえてくる……耳が…、頭がどうにかなりそうだった。
あっくんがいま、何を考えているのか分からないけど、俺の(吸血鬼の)唾液は麻薬的な効果もあるはずだ……、大丈夫、そのうち痛みも和らいで気持ち良くなってくる………
あーー……あっくんの血、ほんと美味しい……たまんない……
…いっそ吸い尽くしてしまいたい……
さっきまで吸う気ないとか思っていた俺の思考は完全に違うものになっていた。
背中に回されていたあっくんの手が、だんだん力が抜けてきた。唾液の麻薬効果で快感に浸っているのかもしれない…。耳もとで熱く規則的だった吐息も少しずつ長く、緩慢になってきた。腕が、完全にだらんと下に落ち、ハッと気が付いたときにはさっきまで感じていたあっくんの体温がかなり下がっていて、
……!!
まずい…!吸い過ぎ……た、……、
「……っ梓……ッ!!…!?」
ドガガッ……!!………!!
ドンっと誰かに体を跳ね飛ばされ、パントリーの備品の生ゴミ回収ボックスが大きな音を立てて吹っ飛んでいった。ほぼ同時だった。
俺は生ゴミ回収ボックスに斜めから大きくぶつかり、弾みでホテル仕様のプロックカーペットが敷かれた床にしたたか身体を打ち付けて脳しんとうを起こしかけた、それを思い切り首を横に振って振り払って目を凝らす、
「…!…ちあ、…き……、」
千秋がいた。
気を失ってグッタリしているあっくんの側にひざまづいてその手を握り、もう片方の手に持っていたスマホで何か話してた、けれど俺の声が聞こえたらしい、すぐに話し終えて後ろ手にスマホをポケットにしまった。
あっくんの、血で濡れた首筋にハンカチのようなものを巻き付け、パントリーのシンクの壁に、壊れ物を扱うようにうやうやしくもたれさせて、やおら俺の方に振り返った。
……ああ…、誰か、1人でもその目を見たことがある人はいる……?
…多分、誰もいないだろうな……
千秋は大股でズカズカ歩いて来て俺の腕を取ると強引に立ち上がらせながら、地響きのごとく低く腹に轟く声で、ゆっくりと静かに話した。
「……いま、救急車呼んだ。
このままだと、梓は死ぬ。
………事情は後で聞いてやる。
早く立って。シャキッとしろ。
………アンタも一緒に行くんだよ。…先輩」
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(続く/次回、千秋視点です)
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