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引越し
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盲目の青年、ナンバーとペアになってちょうど1週間が経った。
あの爆弾の事件(になる前にナンバーが阻止したが)からは特に問題もなく順調に仕事をこなしている。
「アカネ〜!ドア開けて〜」
「はーい」
扉を開けると、大きなダンボールを持ったナンバーがいた。
ツーマンセル制導入から1週間、問題なく業務をこなすことが出来た組はそのまま寮の同室となることになり、今引越しの作業をしているところだ。
「それで全部ですか?」
「いや、あと二つ」
「一つ持ちますよ」
「いーの?助かる〜」
引越しと言っても隣の看守寮から荷物を移動してくるだけなので大したことは無いのだが、あと二往復するのもめんどうだろう。
自分の分の荷物は既に運び終えていたので手伝うことにした。
「ふぅ、これで終わりだー」
「終わりって、ダンボールのまま置いておく気ですか…」
「どーせほとんど使わない物だよ、このまま置いといても…」
「ほら、手伝いますから、ダンボール開けてください」
「えぇ〜」
めんどくさそうな顔でダンボールをとめているガムテープを剥がしていく。
「…てかアカネはもう終わったの?」
「とっくに終わってますよ、自分がやってる間あなたは何してたんですか…」
「何してたんだろ…アカネのこと見てたのかなぁ」
「見えないでしょ何言ってるんですか…」
ダンボールを開けると、そこには何に使うのかよくわからないガラクタが沢山詰まっていた。
「うわ…これ何に使うんですか、
てかなんでこんな…よくわかんないものが沢山あるんですか」
「んーボクもよくわかんないんだよ、人から貰ったものだから捨ててないだけ」
「へぇ…、で、どうするんですかこれ」
「押し入れにでも突っ込んどこうかな…」
結局一度開けたダンボールをもう一度閉じてそのまま押し入れに放り込んでしまった。
もう一つのダンボールは至って普通で衣服やタオル類が入っていたので彼に指定された場所にしまって、とりあえず運んできた荷物は片付いた。
「ありがとね、アカネ」
「いつまでもあのデカい箱を部屋に置いておかれたら困りますから」
「あはは、それもそっか
そういえば今日はマスクはしてないの?」
「部屋の中でする意味ないじゃないですか」
「マスクしてない方が好きだなぁ」
「え、何言ってるんですか」
「声がよく聞こえるからね」
「そうですか…」
そうだ、この裂けた口も、キズだらけの身体も彼には見えないから、気にせずマスクを外すことができる。
そんなことをぼーっと考えていたら、彼の、ナンバーの手が、裂けた口の縫い目に触れていた。
「やっぱり、息の漏れてる部分がやけに細長いと思ったら、そういうこと…」
バチンッ
やけに大きい音が部屋に響いた。
自分の右手が反射的に、彼の手を打ち払った音だ。
「…勝手に触らないでください」
「………ごめん」
誰か知らない人の声と疑うくらい冷たい声が自分の喉から発せられて、彼に謝罪させた。
普段は表情の変化が少ない彼が一瞬だけ、今まで見せたことの無い暗い表情をしたような気がした。
その日は、それ以降お互いに声を発しない。
はっきり分かっている。自分の言動がこの最悪な空気の原因であることを。
声が出ない。何か言うべきだったのに、喉からは乾いた息しか出てこない。
あの事件のこと、彼の掠れるような謝罪の声、暗い表情が頭の中でループして酷い吐き気に襲われながらその日はソファで寝た。
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