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呪い
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何かがぶつかるような大きな音がして目が覚めた。
枕元のデジタル時計を見る、深夜2時だ。
なんだろう、日中片付けた物が落ちたのだろうか、などと考えていたらまた大きな音がした。
音のした方を見てみると、人が立っていた。
暗くてよく見えないが、背格好から見て、というか鍵をかけた自分の部屋にいる時点でナンバーなのは確かだ。
彼は壁を殴っていた。鈍い音が響く。
相当な力で殴っているのだと思う。
「何してるんですか」
そう声をかけると、彼はくるりとこちらを向いた。
「あ、お前か」
「…何がですか」
「いやぁお前には感謝してるよ、これで自由だ」
「どういうことですか、こんな時間に何してるんですか、うるさくて眠れないんですけど」
「はぁ?うるせーのはお前だよ、もう俺の体なんだから好きにさせろよ」
何を言っているのかわからないが、普段の彼ではないことは確かだ。
「多重人格かなにかですか」
「お、察しがいいね、人格、ではないけど実質そういう感じかな?
まあ、あいつが出てくることはもう無いから多重ではないね〜」
「…どういうことですか」
「お前のおかげだよ?お前があいつを弱らせてくれたから俺はまた出てくることができた、そういうわけだから、お前は殺さないであげるよ、よかったな?」
自分がナンバーを弱らせた…?どういうことだ
「あれ、無意識だったんだ?そういうとこは察し悪いのな」
いや、心当たりがあった。自分は彼を傷つけていた。
「困りますね、自分は彼に言わなきゃいけないことがあるんですよ」
「お?やるの?俺強いよ?お前みたいなひょろひょろには敵わないと思うけどな〜?」
「…あんたバカですか、
つまりあんたを倒せば彼は戻ってくるってことですね」
「バカじゃねぇよ、お前に俺は倒せないから言ったって言わなくたって同じ、むしろ準備運動に付き合ってくれるなら好都合だ」
「ずいぶん舐められたもんですね」
見た目が彼だからやりずらそうだが…、
やるしかないのだろう。
手始めに殴りかかる
しかしあっさりと避けられた。
速い、そして真っ暗なこの部屋で驚異的な4感を持つ彼に目で物を追うしかない自分では不利だ。
ゆっくりと後ろに退く。
部屋の電気のスイッチは、あそこか。
「え?諦め早くない?」
「違いますよ」
明かりをつけたら、驚いた。
彼の目には、いつもはない黒い斑点が浮かび上がっていた。
そして熱を帯びているような、瞳自体が淡く光っているように見える。
一言で言うと、気味が悪い。
普段の彼のあどけない表情からは想像もつかない、冷たい表情。
よく知っているようで全く知らない顔。
正直怖い、でもここまで雰囲気が違うのならば躊躇わずにできそうだ。
「どうした?顔色悪いよ?」
「見えてないくせに…」
「残念でした、俺は見えるんだよ、その裂けてる口も、傷だらけの手足も」
見えている…!?
どういうことだ、しかし考えている余裕はなさそうだ。
目の前に拳が飛んでくる、避けきれない。
「ほら、ぼーっとしてるから当たっちゃったじゃん」
頬にじわじわと痛みが襲う。
速さでは敵わない、能力を使って早く決着をつけた方が良さそうだ。
後ろにある本棚に手をかけ、1冊、彼の頭上に飛ばす。
「いッ!?」
その瞬間に彼の死角に自分自身を飛ばし、力を込めて、彼の顔面に拳をぶつける。
「ぐぁッ…」
ナンバーの姿をしたナンバーではない彼は、
そのまま倒れて気を失った。
少し強く殴りすぎたか…?
しかし彼は自分よりもはるかに速く、そしてパワーもあった。自分の能力が空間移動(テレポート)でなければ、普通に戦っていては勝てなかっただろう…
緊張がとけたせいか、どっと疲れが来た。
彼は、ナンバーに戻ったのだろうか。
わからないが、とりあえずそのまま床に倒れさせておくのもどうかと思うのでベッドに移動させた。
丁寧に掛布団をかけて、自分もベッドに戻ろうとした時、
「…アカネ?」
彼は普段の調子で名前を呼ぶとベッドの上に起き上がっていた。
「…ナンバーさん、ですか」
彼の正面に座る。
彼の目を見ると、普段の目に戻っていた。
「……え?なんで…あれ、ボクもしかして」
「あなたには聞かなくてはいけないことがたくさんありますけど、その前に言わせてください」
「…うん」
「ごめんなさい」
「いやボクだって」
「あなたには謝らせません、悪かったのは自分です。
酷いこと言って傷つけてごめんなさい。相方でルームメイトなのに、勝手に触っちゃいけないことなんてないです。」
「ほんと?アカネ」
「はい」
「ありがと」
「…はい」
「ボクを止めてくれたのアカネだよね」
「…あれは、あなたではないんでしょう?」
「でも、ボクだよ。ねぇアカネ…触ってもいい?」
「いいですよ…許可なんて取らなくても」
とても優しく自分の顔に触れた手は少し震えているような気がした。
「この傷は…きっとボクがやったんだよね?
痛かったよね、ごめんね…
口の方は無理には訊かないけど…アカネが話してもいいって思った時でいいから教えて欲しいな」
「自分も殴りました、おあいこですよ、
それよりもう1人のあなたについて教えてくれますか」
「詳しくは言えないけど、この眼に憑いてる、ボクはあれを“呪い”って呼んでる。うちでは神様とも言われてたかな。何年も出てくること無かったから所長にも伝えてなかったんだ、嫌な思いさせちゃって本当にごめん。
アカネ1人であれを止めたの?」
「そうですけど…」
「あれかなり強くなかった?前にあれを止めてくれた人はかなり苦戦したって言ってたから…
アカネって実はものすごく強かったんだね…」
「いや、速さも力も敵いませんでした、
能力を使って止めたんですよ」
「アカネ能力者だったの!?」
「すみません、まだ言ってませんでしたね…」
彼のすぐ後ろ、ベッドの上にテレポートする。
「わっ!?!!」
「これを使って倒したんですよ」
「びっくりした…アカネすごいね…」
「その呪いが言っていました。あなたが弱っていたから出てこれたと。
今回あなたを弱らせた原因は自分ですけど…今後はストレスや疲労を溜めないようにしてください」
「…わかった」
彼はゆっくりと目を閉じたかと思えば突然抱きしめてきた。
「 っえ!?なっ、急になんですか!!!」
「知らない?ハグにはストレス解消の効果があるんだよ」
「…それは聞いたことありますけど、なっ、なんで自分なんですか!」
「嫌だった?」
「いえ…」
「じゃあ…しばらくこのままでいさせてよ」
「……わかりました」
抱きしめられたままお互いに無言だった。
昨夜の無言とは違う、心地良い無言。
なぜだろう
すごく、安心する。
今日はいろいろありすぎて細かいことを考える余裕もなく睡魔に負けてしまった。
目覚めたらそこは自分のベッドの上だった。
今度は彼にお礼を言わなくては。
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