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海辺の作戦会議
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彼に連れられるまま歩いていく。
どうやらこのまま寮へ帰る訳では無いようだ。
連れてこられたのは、海岸だった。
あの刑務所から一番近い海岸。
存在は知っていたが、ここに来たのは初めてだった。
「待ち合わせしてるんだ、まだ、来ないかな…」
「誰と…?」
「んー来たらわかるよ。来る前に、話しておきたいことがある」
まず、昨日の侵入者…長い金髪の少年、猫太と話した内容。彼は虎子(この間部屋にいたやけにナンバーと仲良さげな女性)と半田の仲間であり、猫太が刑務所に侵入したきたのは、半田を連れ出すためだったらしい。
なぜ連れ出す必要があったのかと言うと、どうもこの刑務所を狙う組織がいてその組織から刑務所を守るためだとか。この刑務所には囚人も看守も特殊な能力を持った人が多いから、その能力者を狙っている可能性が高いらしい。
能力者を連れ去られるとその組織が力をつけてしまう。
詳しい話は聞いていないが、非人道的な事件を多く起こしているその組織が力をつけてしまうのはまずいらしい。
信じ難い話かもしれないが、猫太が話している時の心音を聞いていた限りでは嘘ではなさそうだと言う。
そして、その刑務所を狙う組織が、ナンバーの命を狙う人物と繋がっている可能性がある。
猫太と半田を脱獄させるわけには行かないから、
自由な身のナンバーが猫太達の刑務所防衛作戦を手助けせざるを得なくなってしまった。
彼が話したのはこんな内容だった。
…彼はあまりにもさらりと、とんでもないことを喋ったのではないか?
「…え?あなた、命狙われてるんですか?」
彼は顔色ひとつ変えずに話していたから聞き間違いかなにかではないかとすら思った。
「ごめん、黙ってて。この前…あの女、トラコが来た時あったでしょ、あの時にはじめて知らされたんだ。」
「…じゃあ、ここ最近仕事がない日いつもいないのは…?」
「少しでも自衛できるように、修行をね」
「……そうだった、んですね…」
「あんまり心配かけたくないから黙ってたんだけど、結局心配かけちゃったね…」
彼は、はは、と少し笑いながらため息をついた。
「なんで、狙われてるんですか」
「まー、自業自得だよ」
彼は、あまりにも軽く、そう言った。
命を狙われるほどの何かをしたのだろうか。
「それは、まだ秘密ですか?」
「あはは〜、はぐらかそうとしたのバレた?」
いつもの調子で笑う。
「教えたくないなら、無理にとは言いませんよ」
「いや、教えたくないってわけじゃないんだけど…」
だんだんと口を濁す。
「だけど何ですか?」
「…ボクのこと教えたら、アカネのことも教えてくれる?」
しまった、そうくるとは。
「それは……」
「おーい!!おまたせ!」
その声に助けられた。
遠くから声をかけてきたのは、この前部屋にいた…あの女性だ、その隣には眼鏡をかけた背の高い黒いマントの男がいる。
「あ、きたきた」
「えっと…、こんにちは?じゃなくてこんばんはか、いや、おはよう?」
「おはよう、ございます」
「まあなんでもいいや、来てくれてありがとう
自己紹介…してなかったわね、あたしは虎子よ
こっちは、」
虎子はそう言いながらもう1人の背の高いマントの男の方を見る。
「虎子の仲間だ、ゲコ太って呼ばれてる、本名は違うけど」
不服そうに言った。確かに、パンダ、猫、虎ときてカエルでは、少し不憫だ。
「そちらは…えっと、なんだっけ」
「あっ、アカネといいます。」
「ボクはナンバー」
「アカネくん、に、な…ンバー、よろしくね」
「よろしく」
言葉につっかえる虎子に不満がある様子のナンバー。
やはり二人の間には何かあるのだろうか…?
「いやぁよかった、アカネくんが協力してくれるなら心強いかも、ナンバーだけじゃ心もとないし」
虎子はそう言いながらあははと笑っている。
協力…?
「あ、それはまだ聞いてないんだ」
真剣な面持ちで、虎子の話を遮った。
「アカネ、今からボクたちは刑務所を守るためとはいえ
囚人の脱獄を手助けしようとした侵入者の仲間の言いなりになって勝手に行動を起こそうとしている、刑務所の関係者にバレたらかなりまずいと思う。
ボクは命の危険もあるから協力せざるを得ないけど、アカネはそうじゃない。
だから断ってくれても構わない。」
「それは、自分が協力すれば成功率は上がりますか?」
「もちろん」
虎子は得意げな笑顔でそう言った。
まあそんなことは聞かなくても、自分の中で答えは決まっていた。
数日前、彼が大怪我を負ってまで自分を庇ってくれたこと。
それだけが理由ではない気がする。
自分でも何がその気にさせているのかわからないが、
とりあえず、理由は作ってしまえばいいか。
「協力します。彼が死んでしまえば自分の仕事が増えるだけですから。」
「ありがとう、じゃあ、ざっと計画を説明するわね」
虎子はそう言うと思ってました、というような顔だった。
「まず、はじめに、あんたたちには馴染みがないかもしれないけど、今回は魔術を使うわ」
魔術…???
「…虎子、魔術使えたの?」
ナンバーは魔術という単語には驚いていないようだった。
「あたしも使えないことは無いけど、メインはゲコ太がやる」
「…あの、魔術って」
「あ、アカネくんは魔術ってあまり聞いたことないわよね、魔術はうちの地元の方でしか知られてないから」
「聞いたことはありますけど、実際に使える人がいるとは思いませんでした」
「詳しくは説明省くけど、魔術は使い方さえ知っていればナンバーもアカネくんも使えるわ」
「どういうことですか?」
「2人とも、能力者よね、この地域では超能力なんて呼ばれているけど正しくは…というか広く一般的には念能力者っていうの。
念能力者は自身のオーラを使い様々な特殊能力を使用する人のこと、
一方魔術は自身のオーラを餌にして大地や自然のオーラを取り込み利用する術のこと、
だから、オーラを扱える念能力者は基本的に魔術も使うことができるの」
「えっ、虎子まって、ボクは能力者じゃないよ」
「そうね、あんた自身は能力を使いこなせていない、けどあんたの目が常にオーラを放っているから、正しくはあんたの目が能力者って感じかな、まあ魔術を使う上でそこまで問題ないわ」
「それで、今回はどんな…魔術を使うんですか?」
「今回はこの刑務所全体を覆って守る魔術、簡単に言えば結界みたいなものよ、2人にやってもらうことは、結界の周囲に立って、自然のオーラを集める起点を作ることね、ゲコ太、地図出して」
そう言われるとゲコ太は地図とペンを取り出し、説明してくれた。
「ここが刑務所、で、これを囲うように4方位に1人ずつ立ってそれぞれの場所で起点を作る。
術式は2種類、結界を作るための刑務所を覆う大きな術式と、大量のオーラを取り込み4方位から結界へ送るための小さい術式だ。2人には、小さい方を使ってもらう。」
虎子が口を挟む。
「なるべく早い方がいいから、作戦決行は今日の夜よ、それまでに大きい方の術式は準備しておく、2人の仕事が終わったらまたここに集合ってことで、大丈夫かな?」
相方が頷いた。
思い出したかのように虎子が口を開いた。
「差し支えなければアカネくんの能力を聞いておきたいんだけど」
「テレポートです、…なぜ能力を教えていないのに能力者だとわかったんですか?」
「あたしは念能力者だから、他人のオーラが見えるの、オーラの流れ方を見れば能力者かどうかはわかるのよ、
それにしてもテレポートねぇ、念の修業なしでそれができるんでしょ?たいしたもんだわ…」
「…そういうものなんですか」
「誰からも教わらずにできるってのは才能よ、自信もっていいと思うわ」
「才能…」
「あれ、もうそろそろ夜が明けるけど、あんたたちも仕事あるだろうし、そろそろ戻る?」
「もうそんな時間なんだ、じゃあ帰ろっか、
また夜ね」
2人と別れて、夜明け間近の薄明るい道を歩く。
さっきの言葉が離れなかった。
才能……なんて
そんな大層なものではない。
この能力が使えるようになったのは……
…今はやめよう、
忌々しい記憶を心の隅に追いやった。
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