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人間
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ボクは双子だった。
双子の弟の方だ。
同じ母親のお腹の中で同じように育ったはずだが、後から外に出たという理由で、ボクは物心つく頃から兄のストレス発散、性欲処理の道具だった。
ボクは自分自身に生命を感じなかった。
本当に、道具だと思っていた。
そのことに違和感も嫌悪感も抱かなかった。
16歳の時に転機が訪れた。
それまで兄に逆らおうなんて、考えたこともなかった。
ある日声が聞こえた。
誰にも聞こえない、ボクだけに聞こえる声だった。
声は言った、お前、力は欲しくないか、と。
力とは何か?
言葉の意味は知っている。
ほとんど自宅の敷地からでない生活ではあったが、家庭教師や使用人にそれなりの教育は受けたから。
しかしわからなかった、力が欲しい?ボクが?
意味がわからない。そう返した。
声は言った、もういい、俺の言うことに従え、と。
ボクは既に兄に言われるがままの道具であったから自分で思考するということを忘れてしまっていた。
従えと言われたら従う以外の行動がわからない。
ボクは声に言われるがまま、兄を屋敷の一番外れにある使われなくなった倉庫へ監禁した。
兄はボクを道具としてしか見ていなかったからか、ボクが兄以外の命令で動いたことに動揺していて捉えるのは難しくなかった。
ボクは兄に忠誠を誓った奴隷ではなく、ただの道具だ。
だから得体の知れない者の声にも従ってしまったのだ。
そして声に言われるがまま、兄に成りすまし、16歳の儀式に出た。
16歳の儀式とは、この家の後継者となる者が16歳になった時、「神の目」を受け継ぎ後継者としての能力を授かる儀式だと、家庭教師に教わった。
後継者は兄だ。
本来ここにいるべきは兄だ。
しかし声の命令によって、ボクがそこにいた。
話を聞いていただけで実際にはどんなことが行われるのかはよく分からなかった。
自分の身をもって初めて知ることになった。
神の目を受け継ぐ、とは。
自分の目を抉り取られ、神の目と呼ばれるそのガラス玉のようなものを代わりに埋め込まれたのだ。
痛みには慣れている。
それよりも得体の知れない何かが、目の中だけでは無く、体全体に染み渡っていくような感覚がして、不思議で仕方なかった。
神の目が埋め込まれると、謎の声は聞こえなくなった。
その後は視覚が無くなってしまったこと、そして自分がしたとんでもない行動を実感し、突然恐怖が込み上げてきた。
わけもわからず遠くへ遠くへ、何も見えないけれどただひたすらに走った。
何も見えないのに全てわかってしまうのが怖かった。
これが後継者としての能力なのだろうか。
屋敷から少し離れた森で、走り疲れて倒れていたところを、師匠、アルスに拾われた。
あの頃の自分は、生きてなどいなかったのだなぁと、今は思う。
初めての感覚だった。
彼を見ていると、生命そのものを感じるのだ。
いや、彼とすごしていると、が正解だ。
見えることは無いから。
生きるということが一体なんなのか分からなかった。
同じく、死ぬことがどういうことなのかもわからなかった。
いや、分からなかったのではなく、考えたことがなかった。
生も死も、自分には遠い存在だと思っていた。
彼はとても人間らしい、とボクは思う。
それと同時に、彼とすごしているとボク自身も人間のようになっていくのを感じるのだ。
初めてそう思ったのは、彼に手を叩かれた時だ。
触らないでください、そう冷たい声で言い放たれた時、その時初めての感情を抱いた。
重く、冷たく、苦しい。
それは、悲しい。
今自分は悲しいのだと、確かにそう思った。
初めてのことに、戸惑い、何を言っていいかわからず、兄を怒らせてしまった時にすぐ謝罪するクセがそのまま出てしまった。
その日は、どうすればよかったのだろうか、とずっと考えていた。
アルスは怒ったことなどなかったし、兄が怒った時はただ痛みに耐えていればいいだけだったから、わからなかった。
彼はボクにとって未知だった。
もっと近くに感じたくなって抱きしめてみたら、嬉しい、心地好い、安心する…様々な感情が湧いてきた。
彼に触れれば触れるほど未知に出会える。
彼といると、今まで知らなかった感情を知り、人間らしくなっていくような気がした。
不思議で仕方なかった。
彼を抱きしめるとき、
彼の鼓動、息、髪が擦れる音、口がひらく音、瞬きの音、全てが聞こえる。
彼の全てが聞こえるようで、しかし彼の何もわからなかった。
彼に触れることで自分の感情に気がつくことはできるのだが、彼については全くわからなかった。
だからかわからないが、彼を離したくないと思った。
何があっても彼と離れることはしたくないと思った。
彼を手放せば自分が人間になれないような気がした、そして一度知ってしまったらもう何も感じないただの道具には戻れないのだ。
気がつけば何をしていても彼のことを考えている。
彼はボクと共にいて、何を思うのだろうか。
彼はボクのことをどう思っているのだろうか。
人間らしくないボクをどう思うのだろうか。
彼が考えていることが知りたい。
彼が心の内に隠しているものを見たい。
初めて、生きていたい、死にたくないと思った。
彼がいる世界で彼をずっと見守っていたい。
彼を抱きしめた時、いつまでもこのままで、離したくないと思った。
彼にこの気持ちを伝えたら、どう思うだろうか?
彼は彼自身の気持ちを教えてくれるだろうか?
臆病なボクにはそんな勇気は無く、
声にならない言葉を彼の腕の中で呟いた。
大好きだよ、アカネ
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