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ルームメイト
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ツーマンセル制が導入されて3週間ほど経ったが、自分は一人部屋だった。
1人で仕事をこなさなければいけないことに文句はない。
自分が一人部屋である理由ははっきりわかる。
男なのに女のフリをしているからだ。
最初は好き好んで女装をしていた訳では無かった。
姉を殺害した犯人を探すために、姉の姿に扮していたのだ。
背格好からして普通の女装ではそこまで姉の姿に似せることはできない。
しかし自分には特殊な能力があった。
自分の姿を思い通りの姿に変えることができる能力。それは背格好の差すら無視し、本物と全く変わらぬ見た目になることができる。
まあしかし犯人探しは既に昔に終わっていて、今は女装する意味など特にはないのだが…
女としてこの刑務所に入ってきて、後から男でした〜というのも同僚たちを動揺させてしまうだろうし、
男の姿ではいつも警戒されていたが、女の姿をしていると敵のほとんどが油断する、こんなことを言ったら性格を疑われるかもしれないが、その余裕の表情を一瞬で崩すのがおもしろかった。
しばらく女装をしてたら美しくない男の格好に戻るのが恥ずかしくなってしまったというのもある。
そういうことで、今も女のフリを続けている。
犯人探しの途中で、念という存在に出会った。
否、気がつかされたというべきか。
自分の容姿を思い通りの見た目に変える自分の能力は、念と呼ばれるオーラの性質を変化させることでしていたらしい。
念を知らずにこれをできていた自分は天才と言われた。
天才などという言葉は、道場で剣術を学んでいた頃から聞き飽きていた。
あの頃は純粋に剣を振るのが楽しくて面白くて夢中で毎日練習して、いつのまにか道場の仲間には自分と張り合える人は一人もいなくなっていた。
薫は天才だから、誰も敵わない。
気づけば自分の周りには誰も寄り付かなくなっていた。
だからなんだということは無かった。
1人でいることは普通に好きだったし、友達や仲間がいなくても困ることは何もない。
むしろ1人の方が自由でいられる。
そう、だから一人でよかったのに。
突然の看守長の呼び出し。
「ルームメイトですか?」
「そう、ルームメイト、香涙の相方が決まった 。」
確かに自分にだけペアはいなかったが。
女のフリした男だぞ…ルームメイトが男でも女でも困るのではないか。
「私なら別に一人でも問題ないですよ」
「もちろん、お前一人での仕事に不満はねェ。
しかしなぁ、先日看守の1人が自主退職し、そのペアが1人余ってんだ。」
「なるほど。」
「午後に向かわせるから、お前の部屋も一応2人部屋だったよな?軽くでいいから準備しておけよ」
拒否権が、ない…
「私の部屋に、来るんですね」
「あぁ、向こうの部屋は少し問題がな…
急で悪いが、よろしく頼む」
問題…?何だ?事故物件か何かか?
「わかりました」
1人の方が自由で気楽だったのだがなぁ…とわがままも言ってられない。
散らかっているわけではないが、個人スペースを無視して置いてある私物もあるので軽く片付けをしておかねば。
そういえば、ルームメイトが男か女か聞きそびれたな…
しばらくして、インターホンが鳴る。
お、新しいルームメイトの登場か。
「…あの、お休みのところすみません…」
「…!!凛さん!どうしたんですか?」
予想外の相手だった。まさか凛さんがルームメイト…!?
それは願ってもないことだが、心の準備が…!!
「…これ、ましろちゃんと、一緒に焼いたパウンドケーキです、よかったら、香涙さんにもと思って…」
小さくて震える手からちいさな紙袋が手渡された。
「…!?あっ、私にですか!?ありがとうございます!」
凛さんがルームメイトなんてそんなわけないか…
しかし自分のために手作りのお菓子なんて…一生冷凍して大切に保管し、死んだ時には一緒にお墓に入れてもらおう。
「あ…手作りなので、はやめに、食べてくださいね…」
心を読まれた!?
ここで頭のおかしい男…いや女だと思われてはいけない…ここまで心を開いてくれたのが水の泡になってしまう…
「はい!ありがたく、いただきますね!今度私も凛さんにお菓子作りますね!」
「…えっ、そんな!…私のことは、お気になさらず…」
「いえ、私がお返ししたいんです、遠慮しないでください」
「…あ、ありがとうございます…」
こうでも言わないと凛さんには断られてしまう。
手作りお菓子を受け取ってもらう約束を取り付けることに成功し、心躍らせながら凛さんを部屋まで見送った。
何を作ろうかな、クッキーではありきたりだし、ガトーショコラがいいか、思い切ってホールケーキを焼くのもいいかもしれない。
凛さん1人では食べきれないだろうからと言えば、一緒に食べさせてもらえるかも…!
我ながら天才的なアイデア……
こんな作戦をできるのも女のフリをしているからだと思うと、過去の自分、ナイスだ…
盛大に自画自賛しながら帰ると、部屋の中に見知らぬ人がいた。
しまった、鍵をかけ忘れたんだ。
青碧色の長い三つ編みに、民族衣装だろうか、あまり見かけない白の衣を身にまとう、非常に整った顔をしている、一見男とも女とも取れるが、体格から見て恐らく男であろうその人は、こちらに気がついたようで鋭い眼光を向けてきた。
「…!?誰だ貴様!」
先に声をかけてきたのは向こうだった。
声をかけてきたというより、怒鳴ってきた、の方が正しいか。
これが初対面の女性に対する態度だと思うと恐ろしい、凛さんだったら泣き出してしまうレベルだ。まあ幸い自分は男なので平気だが。
「いや!人の部屋に勝手に上がり込んどいてそれは無いでしょ!お前こそ誰だよ!」
負けじと正論で対抗する。
「女と同室だなんて聞いていない!」
まあ、そうだよな…
「誰が女だって言ったよ…と言いたいところだけど、まあ仕方ないよな女に見えなかったら逆に困るわ」
「どう見ても女だろう!」
「残念ながら男なのよ、そんなに疑うなら脱ごうか?」
「やめろはしたない!」
即答で断られた。
「見たいと言われてもまあ困るけど、しかし酷い言い様だな」
「本当に男なのか…?」
「そうだけど、えっと、つまり今日からルームメイトになる人ってあんたの事であってるよね?」
「あぁ、部屋の番号はここで間違っていないはずだが」
「まあルームメイトなら隠してもおけないから言っちゃうけど、俺は自由に自分の姿を変えられる能力を持ってる、それでこの姿を維持してるわけ」
言いながら能力を解く。
「こっちが本当の姿」
本当の姿は女装している時よりも背が高くて、肩幅は広い、髪の長さだけを除けば普通の男だ。
彼は驚いた顔はしているが落ち着いている、きっと彼も何らかの能力を持っているのだろうな。
「変化系か。」
「なんだ念能力者だったのか、そうだよ俺は変化系」
返事がない。
こっちは自分の能力や秘密をバラしてしまってそちらのことを何も教えてもらえないのではなんだか損した気分だ…。
もしや聞かれないと話さないタイプか?
「俺の名前は香涙だ。そっちは?」
「センリだ。」
「センリね、よろしく、差し支えなければ能力も教えてもらえると、今後の仕事がやりやすくなると思うんだけど」
何故かものすごい不機嫌そうな形相で睨まれている…いやそれは部屋に入った時からずっとだが、
自分は何か気に触ることを言ったか?
「具現化系だ、基本は何も使わず素手で戦うが、」
そう言いつつ彼は手のひらの上に扇を具現化させた。
「戦闘のサポートにこれを使う、色々なことが出来るが、その説明はまた使う時にでもさせてくれ、全て話すと長くなる」
「へぇ…」
扇は彼の風貌や衣装に合っていて、何というか、格好良かった。
癪なので絶対に本人には言わないが。
自分は女の姿で制服を身にまとい刀で戦う、ミスマッチにも程があるから余計にそう感じるのかもしれない。
軽い自己紹介も終えたところで、先程凛さんから頂いたパウンドケーキを食べるために紅茶を入れた。
凛さんから貰ったものを彼にも食べさせるのは少し複雑だが、目の前で一人で食べるのを見せびらかすのもどうかと思うし、やはりルームメイトとは打ち解けておきたい。
どこぞの先輩方ほどまではとはいかなくとも、そこそこ仲良くしておいて損は無いだろう。
「パウンドケーキ、食べる?さっき凛さんからもらってさ、紅茶もいれたし一緒にどう?」
「あぁ、頂こう」
常に不機嫌そうな顔。
これからお茶菓子を頂くという時にその態度は一体なんなのだろうか。
そんなに女のフリした男と同室なのが嫌なのか…?
彼は紅茶をひとくち口に含むと、今までの鋭い表情がほんの少しだけ和らいだ。
本当に、ほんの少しだけだが。
そして飛び出た言葉がこうだ。
「あまり、美味しくないな。」
「あぁ!?悪かったね紅茶いれるの下手で!」
「こちらの焼き菓子はとても美味いが、」
「ああそうだろう!凛さんの作ったお菓子が美味しくないわけが無いし冗談でも美味しくないなんて言ったら間違いなく殺す!!!!」
思わず立ち上がって大きな声を上げてしまう。
「喧しいな。お前は正しい紅茶の淹れ方を知らないのだろう、次は私が淹れてやる。」
「あっそう、勝手にすれば?」
自分も不機嫌を丸出しにして言葉を吐いた。
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