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嫉妬
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兄の笑顔が憎いと感じたのはいつのことだったか。思い出せないけど、確かにあった。僕の事を、母さんも父さんも空気みたいに扱うのに、兄さんだけは、いつも優しくしてくれた。それを嬉しいと思う反面——兄さんがいるから二人は僕を愛してくれないのだと、声を荒げたくもなった。
久しぶりの帰省。僕は兄さんに、高校からは兄さんと暮らしたいと申し出た。みんな驚いていたけど、すぐに許してくれた。兄さんは、僕と暮らすのが純粋に嬉しいみたいで、母さんと父さんは、僕がいると言う大義名分のもと、今より兄さんと関わる時間が欲しかったからだと思う。
そうなる事を承知の上での提案。僕も随分と家族を操るのが上手くなったものだ。
「だけど、今いるところだとちょっと狭いなぁ」
ご飯を飲み込んで箸を唇に添えたまま兄さんが言った。その瞬間、スイッチが切れたみたいに無表情になる母さん。あぁ、また僕を兄さんに迷惑かけるなって叱るんだろうね。お味噌汁の最後の一口を飲み干して、箸を置く。
「ついでに引っ越すか。カガリ、空いてる日あるか?」
「ぇ……今度の、土曜日からはずっと暇だよ」
思いもかけない提案に、つい間抜けな声が漏れそうになった。
「じゃあ、その二日後……月曜日に見に行こう」
「うん、ありがとう兄さん」
手を合わせて食器を流しに置くと、部屋に戻る。
そうしてすぐに、クローゼットの中にある缶で出来た箱を取り出した。中にあるのは猫の死骸。下校途中に見かけて、兄さんが来る直前に殺したもの。
時間がかかりすぎて、冷たく、硬くなってしまった。もう使えない。ゴミだ。中身を窓の外にそっと捨てて、ベッド脇の箱に手を伸ばす。中にあるのはたくさんの“作品”。けれども最後に作ったのは二ヶ月も前のこと。
そろそろ作ろうか。いや、来月から兄さんと暮らすのだ。これを機に止めよう。
作品を全てしまうと、僕はお風呂の番が来るまで部屋で勉強に勤しんだ。
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