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ダンボールが散らばった室内で目を覚ます。
今日から高校生になった僕は、この2LDKのマンションの一室で七つ上の兄と二人で暮らす事になった。今更になって思う事は、兄さんに彼女はいないのだろうか?と言う疑問で、もしいたとしたら、決していい顔はしないのだろうなと言う事。そんな今となっては遅すぎる疑問が浮かぶままスクランブルエッグ用に卵をとく。
食欲をそそる油の音を聞きつけて、まだ幾分眠たそうな兄が起きてきた。
「おはよ……おお、朝から悪いな」
朝食を盛り付けたプレートをテーブルの上に乗せ二人で向かい合うように椅子に座る。
「「いただきます」」
重なる声がなんだか擽ったくて、二人で笑みを零せば、兄さんは早速ソーセージを一口かじった。
「んー!茹で加減が絶妙!!お前絶対に才能あるぞ!」
「裏に書いてある通りに作っただけだよ……でも、ありがとう」
兄のこういうところは本当にずるいと思ってしまう。こんなに可愛い事言われてしまって、誰が憎めるのか。
「ふぅー、ご馳走さま。それじゃあ俺片付けるからカガリは学校行く支度済ませて来い」
「ありがと」
立ち上がってパタパタと洗面所へ行き、歯を磨く。ついで部屋に戻り制服に着替え、必要なものを鞄に詰め込みリビングへ戻った。
「忘れ物ないか?」
「兄さんこそ、そろそろ会社行く支度した方が良いんじゃないの?」
「何言ってんだ、今日は有給取ったから良いんだよ」
そう言って大きな手のひらで頭をくしゃっと撫でる兄さん。ずるいなんて通り越して、もうなんだか別の生き物にさえ見えてきてしまう。
「行ってきます」
何年かぶりに笑顔で言った気がする。
幸せとはきっとこんな感情だ。家にいたらずっと味わう事のできないもの。
その時、目の前を一匹の猫が通り過ぎた。
……首には、名前が書かれているであろうプレートが下がっている。
「友達、できるといいな」
心にも無い言葉は春の青空に溶けた。
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