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男子高校生相手に何を怖気付く必要があるのか。
自分の中のどこか深いところで、「こいつは危ない」と危険信号を出されたように、身体が動き方を忘れた。
片手のナイフでレシートの中心を突き刺すと
ビリビリと音を立てて細かく切り刻んでいく。
粉々になるまでその作業を淡々と繰り返し、無言のまま助手席の窓を開けたと思えば
ひらひらと紙切れを道路に流した。
ひらひら、というのは多分表現としては間違っていて、正しくは即座に雨に打たれ、まっすぐに道路へ叩きつけられて行く。
きっと俺の後を走る車が滅茶苦茶に踏み荒らして、地面と同化するのだろう。
──人違いじゃない。
蘇る記憶。
今ではもう名前も思い出せない友人と歩いた通学路と、道端にへたりと座り込む少年。
佐々木が言っていたのは、確証はないけれど
俺で間違いない。
初めてハマった少年漫画の主人公に憧れて物騒な物を買ったものの、後々やり場に困って。
思い出すのも恐ろしい程恥ずかしい台詞を吐き、弱々しい子供に押し付けたのだった。
「…そのナイフ……。」
「思い出してくれました?俺がいじめられっ子のへなちょこチビだった頃、貴方に貰ったんです。
…俺、成長したでしょー?」
その口調や表情は、松井さん(仮)の連絡先を切り裂いていた時とは違い、俺に懐く舎弟・佐々木のそれだった。
「あぁ……。そんな事もあったかも…。」
さっきまでのピリついた空気は何処へやら。
佐々木は慣れた手つきでナイフをたたみ、再びポケットにしまう。
と、ビニール袋を持ち手を広げ、俺に見せつけるようにずいと近寄った。
「竹内さん、普段焼き鳥買わないから何がいいのかわからなくて……王道のももとねぎまと皮2本ずつ買ったんスけどよかったですか?」
「……皮は塩か?」
「ももねぎまタレの皮塩です!」
「よし。上出来だ。」
あの時の貧弱そうなガキがこんなに大きく成長したのか。何だこの謎の親心みたいな嬉しさは。
思わず頭を撫でると、佐々木は少し驚いた素振りを見せたが、すぐに嬉しそうに尻尾を振っていた。
出来るだけ俺の前ではその凶器を見せないでもらいたいがな。
羞恥と恐怖で頭が痛くなる。
「自分の分はちゃんと買ったか?」
運転中が故に、焼き鳥以外の何が入っているかを俺は知らない。
よそ見が出来るような天気じゃないからお前を乗せているのに、なぜ気付かん。
免許を取る前の奴はこんなものだろうか。
「あ、廃棄時間過ぎた塩カルビ弁当見つけたんで知らん顔してレジ持ってったら、これラス1だったし、必ず今日中に食べるって約束でタダで貰ってきました!」
見るところが違う。
やるな、現役コンビニ店員。
そうこうしているうちに車は家の駐車場に到着し、まるで意味を成さない傘をさすのは諦めて
バシャバシャと飛沫を食らいながら切れかけの玄関灯を目指した。
誰かを家に呼ぶのは新鮮で。
掃除はしたものの、あくまでも俺の為の整頓でしか無いわけで。
汚くないかとか、着替えやタオルはちゃんと洗濯機に入れただろうかとか
そんな心配ばかりしてしまう。
突然の来客に多少なりともテンションが上がっていたのかもしれない。
そうじゃなければこんな重大な事を忘れたりしない。
いや、途中までは覚えていた。
だが情報の大渋滞により、今の今まですっぽり抜けていたのだ。
俺自身の最大の秘密。
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