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「狭くて悪いな。…我慢してくれ。」
暗闇の中、佐々木の手を引いて寝室へ入り、シングルサイズのベッドに男2人で横になった。
1人で寝るにはちょうどいいか、むしろ俺では広いくらいのベッドだが、
佐々木が入れば簡単に寝返りを打つことが出来ないくらいには窮屈になる。
暗いからいいものの、男が寄り添いあって一つのベッドに入るというのは何とも奇妙なものだと思う。
向かう途中で我に返ったものの、怖がる佐々木を放っておけないのも事実。
人の吐息を感じる距離で眠るのも、ここ数年全くなかったものだから、なんだか落ち着かない。
……こりゃ参ったな。
身内や友人、恋人でもなければ、ただのよく立ち寄るコンビニの店員だ。
しかもかなり年下の学生。
「竹内さんの息、めっちゃかかりますねこれ。変な感じ。」
そう思っていたのは俺だけじゃなく、なんと佐々木もだったらしい。
息ねぇ。
息がかかる…、か。
く、臭くはないだろうか。
大丈夫か?
今日は酒も飲んでいないしニンニク料理もキムチも摘まんではいない。
胃でも弱っていない限り大丈夫だとは思うが……。いや、そう信じたい。
だがもし、これで口臭我慢させていたのならどうしよう。遠回しに教えてくれただけの可能性は…?
それこそ今後佐々木の店に買い物に行く時、「あ、口臭やばいおっさんだ。」とか思われるんじゃないか。
たまたま会食の予定が入ってブ○スケアとか買った日にゃ退店と同時に散々馬鹿にして笑われるに違いない。
……そうなるとマスクも問題だ。
きっとドブ臭を気にしているんだとか勘違いされて──。
と、そこまで考えたところで思考を意図的に停止させた。これ以上続けると自らのメンタルが粉々に砕け散り、もう二度と佐々木と顔を合わせられない。
窮屈さを痛感しながらも寝返りを打ち、佐々木に背中を向ける体勢へと変える。
勿論息を止めて。
「…それは悪かった。」
声を出せたのは、完全に壁を向いてからだ。
シーツを口に押し付けて。
「あ、あの別に変な意味じゃなくて!」
ならどういう意味なんだよ。
既に同じ空間で口を開くことすら恐怖に駆られ、脳内で即座にツッコミを入れる。
「竹内さんの煙草とか…あと竹内さんの匂いもして、なんなら幸せでした。」
竹内さんのにおいって何だよ。
匂い…いや、臭い?
やっぱり俺は臭いのか……?
だってそうだよな、26だぞ。
そろそろ加齢臭とかしてきそうな感じだし。
もう、何とでも言えよ好きにしろ。
ばーか。ばーか。佐々木のばーか。
「竹内さん、何でそっち向いちゃうんですか?」
「……だって息。かかったら寝れるもんも寝れなくなるだろお前…。」
おっさんの寝息を顔にかけながらだなんて、例え寝れたとしてもめちゃくちゃ夢見悪そうだしな。
「んー、そっスかね。」
「だろ。……も、寝るぞ。」
落ち着かないだのと焦っていたのは誰だったか。
おふとぅんの素晴らしさと言ったらそれはもう恐ろしいほどで。
ふかふかと温かな羽毛に包まれれば、まるで今日もよく頑張ったわねと優しく声をかけてもらっているかのような心地良さが全身を癒す。
「……くっそ。どっちにしろあんたが居たら寝れねえわ。」
少しずつ意識を支配していく睡眠欲には到底逆らう事も出来ず、何かを呟いた佐々木を無視し、早速穏やかな眠りについた。
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