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「ここよく来るんスか?」
「あぁ…、まあ。」
小さな駐車場は、平日の昼時とは違いまだすっからかんだ。
11時開店のラーメン屋に11時10分に来ているのだから、それもそうだろう。
ちらほら見える客も、今日はスーツや作業着のサラリーマンではなく私服の若者が多い。
いつも決まった曜日の決まった時間にしか来ない俺にとって、それは少しだけ新鮮でもあった。
「アーーイらっしゃーい!」
初めはどこから声を出しているのか謎でしかなかった店主のこの声も、慣れてしまえばなんてことはない。
──が。
「………あのおっさんどっから声出てんだよ…。」
「…これがそのうち慣れるんだ。」
「え…?そっスか。」
初めての奴、連れてきてた。
カウンターに案内されて、小さな丸椅子に隣同士腰かける。
早々に注文を取りに来た店主は俺に気付いたらしく、パァっと周りに花を散らした。
人の顔を覚えるタイプか、このオヤジは。流石接客業と言ったところだ。
「アーー兄ちゃん!今日はえらい爽やかな格好してんだねぇ、休みかい?」
「あー…はい。」
「硬め濃いめ少なめで味玉と海苔追加でいいかい!」
「あ、はい大丈夫…。」
「アーーイ。お、隣の兄ちゃんはどうするねい?」
家系と呼ばれるラーメン屋。
麺は硬め、味付けは濃いめ、油は少なめ。
これが俺のいつもの注文パターンであり、何年も通っていればいつの間にか覚えられているらしい。
しかし物の数秒で注文を取りに来られて、この店に一度も入った事の無い佐々木からしてみれば未知の世界なようで。
「じゃあ、俺竹内さんのと真逆がいいっス!」
「アーーイ、柔らかめ薄め多めね。チャーシューとメンマ追加でい!」
「アーーイ!!」
いや、お願いだからアーーイを真似しないでくれ佐々木。
味玉と海苔の反対がチャーシューとメンマだったのは初耳だ。
店主に親指を立てて笑顔を向ける佐々木を横目で見て、そんな事を思う。
そして程なくして出てきたラーメンを、佐々木は
涎でも垂らしそうな勢いで食い入るように見ているから恐ろしい。
俺の記憶ではほんの1~2時間前に焼肉弁当を頬張っていた筈なんだが。
「「いただきます。」」
テーブルの隅に何本も用意されている割り箸を2組取った佐々木は、さも当たり前のように自然な手つきで俺に渡す。
「あ、…すまない。」
ほんの一瞬触れた指先。今までだって何度も当たった事くらいあるのに。
こんな仕草一つに胸が高鳴るなんて、一体どうしたものか。
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