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「本当ありがとうございました!家まで送ってもらっちゃってマジですいません。」
「……いや、構わない。」
橋を渡ってから佐々木の家まではあっという間だった。
突き当りを曲がって見えた小さなアパートの手前に車を停める。
少し寂しそうに見えたあの顔が嘘のように、佐々木はいつものコンビニスマイルで後頭部を掻き、ドアに手をかけて。
「じゃあ…。バイト先、また来てくださいね!」
「あぁ…。」
俺の返事に頭を下げ、佐々木はバタンと助手席の扉を閉めた。
やっと静かな一人の時間が出来るぞ。それなのに、最後に見えた表情は、
またあの俺が唯一好きじゃない佐々木の顔で。
どうしてかはわからないが、気づいた時には俺まで車を降りていた。
「さ、佐々木っ………。」
アパートの入り口を目指していた、長めの髪を一纏めに括った男がこちらに振り返る。
実際声に出した回数はほんの少ししかなくて、頭の中では何度も何度も呼んでいる名前でも
やはり本人を前にして“佐々木”と呼びとめるのは恥ずかしかったりするものだ。
「へ?…どうかしましたか?」
「あ、その………。」
たたんと軽快な足音を鳴らしてこちらへ来る佐々木に対し、何とか話題を作る為、脳内をフルに働かせる。
自分が呼び止めたのだから、それなりの理由がなければおかしい。
「どうかしました?」
頭の中でぐるぐると考えを巡らせているうちに、すぐ目の前まで来てしまった佐々木は
俺をじっと見て不思議そうに首を傾げる。
何か言わないと。いや、でも何を言えばいいんだ?ここまで来てもらって「気をつけて帰れよ」は流石にな……だからって寂しそうに見えたなんて正直なことを言うと、恋人でもないのにキモいだけだろう。こういう時は…あー、えっと──。
遂に本格的パニックを起こす3秒前まで迫った次の瞬間
「あー!まさか俺が車に財布忘れたの気付いてくれました?すいません!!開けていいっスか?」
ズボンのポケットをパンパンと叩いて焦る佐々木にばれないよう、盛大に喜んだ。
それはもう、盛大に。
やったーーーー!と叫んで飛び跳ねた。
あぁ、勿論心の中で。
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