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職場に戻れば予想通り…いや、予想以上に山積みの書類。あいつら俺がいない間にまた増やしやがったな。
バレてないと思ったら大間違いだ。飯を食いに行くだけで仕事が増えるなら、昼飯などいっそ抜いてしまおうか。
頭を抱えた俺をよそに、法月は早速作業に取り掛かる。
何をそんなにやる気になっているのか知らないが、自分が断りきれなかった仕事を押し付けているのだから俺もサボってはいられない。
隣で電卓を叩く男に負けじと、午後の開始時刻前から盛り上がる山を崩し始めた。
──仕事が出来る奴とは恐ろしいもので、上司の俺が追いつくのに精一杯だ。
押し付けられる雑務なんて大体が得意先に送る請求書の金額ミスを確認したり、作った資料の誤字脱字チェックだ。
確かに誰にでもできる仕事ではあるのだが、地味で気が遠くなる上に責任の重さだけは一丁前のそれを好んでやりたい人間などいるはずも無く。
結局、“信用できる”“頼り甲斐がある”
なんてうまいこと理由をつけられて俺が片すことになる。
毎日のようにそんな事をしていれば、いつの間にか作業も早くなるわけで。
実は本を読むのが早くなった、とか…ネットニュースの誤字を見つけて鼻で笑っている、とか…。
自慢にもならない特技が出来たりするのだ。
──が。この男に、少しばかり高くなった鼻をいとも簡単にへし折られる事になるなんて。
俺が一つ何かを片すうちに法月は二つ目に取りかかり、俺が自分の仕事に追われていれば、さも当たり前のように俺のデスクに置かれた途中の資料を奪われる。
今年の新人は期待できるぞ。
法月を含めた数人の就職試験の後、課長がそんな事を言っていた。俺だって面接に顔を出した分、法月の優秀さに感心はしていたよ。
…だがいくら何でもこれは、期待どころかこちら側のメンタルをやられる勢いだ。
「…ふぅ。これで終わりですか?」
だからどうしてそんな清々しい顔をしているんだ。
俺の気持ちを考えてみろ。
俺も多少仕事はできる方だと自負しているが、
出来すぎる奴と並んだらあっという間に出来ない奴だ。
「…助かった。流石だな。」
俺の中ではただただ皮肉めいた言葉だったのが、法月にとっては違ったらしい。
みるみるうちに胡散臭い笑顔が群を増してキラッキラと輝き出し、照れ臭そうに頭を掻いていやがる。
「竹内さんに褒めていただけるなら…いくらでも頑張れますよ。」
やめてくれ、そんな目を向けないでくれ。
俺はただコンビニに同行願いたいだけなんだ法月。
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