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「いらっしゃいませー。」
レジカウンターの向こうから聞こえたのは、力の篭っていない気だるげな声。
サーッと身体中の熱が冷めきった。
別に期待していただとか、楽しみにしていただとか、何を話そうだとか何を買おうだとか。
デザート周りを歩く時は目線に気をつけようとか、あいつに声を掛けられた時のシミュレーションをしたりとか
別に余計な事を考えたりはしていない。…断じて、一切。
ただ、今更時計を確認して初めて、平日の夕方である事に気付いただけだ。
佐々木は高校生なんだ。四六時中ここで働いていると思ったら大間違いだ。
たまたま俺が残業終わりに立ち寄れば、いつもここに居るというだけで。
あぁ、何を一人で舞い上がっていたのか。
わざわざ法月まで同行させて。
法月は察しが良いというか、俺をよく見ているというか。この場所に俺の目当ての人物がいなかった事におそらく気付いている。
…何だか、申し訳ないな。
「…時間、早すぎたな。すまなかった。」
「いえ、僕は全然。というか、竹内さんと仕事終わりに出掛けられたことが嬉しいので。」
「……何言ってんだか。さ、コーヒーくらいなら買ってやるがどうする?」
カバンの隅で潰れている財布を取り出し、凝り固まった肩を回した。良いか悪いかはさて置いて、緊張も抜けた事だ。いつも通り買い物をして、たまには早めに家で休もう。
「そうですね、コーヒーでも飲みながら気長に待ちましょう。」
「………は?」
振り返った時には既に、法月の手には2つの缶が握られていた。
どこにでもあるシンプルなデザインのそれが、嘘くさい笑みを輝かせる男の手の中で僅かに汗をかく。
「ここまで来させておいて、コーヒー1つで僕がおとなしく帰るとでも?」
「…………?わ…わか、た…。」
法月、こんなにゴリゴリ系だっただろうか。
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