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多分、それから何度かテレビのチャンネルを変えただろう。
普段存在を忘れるレベルに通知のならないスマホの画面を用もなく眺めていただろう。
だが、その全てにおいて気を紛らせる手段でしかないという事を俺は既にわかっていた。
確かに感じる佐々木の重みに、気を抜けば反応しそうな何かを隠し通すためにはどうすればいいか…いや、そんな事を考えている時点でダメだ。
けれどどうにもこれは仕方のない事であり、特に今日…というか、佐々木に対して抱く謎の感情を自覚し始めている俺にとって、今の状況はまさしく……そう。
「拷問だろう……。」
「へ?ゴリラ?」
「難聴かお前は。」
マスクを捨てる時に固く誓った約束事も虚しく、頭の中に浮かんだ言葉を呟いてしまうらしい癖は相変わらずのようだ。
佐々木の耳が悪いのか拷問という言葉を知らないアホなのか…まあどちらでもいいが、その意図を理解しないでもらえたようで助かった。
すると、程なくして下半身を押さえつける重量感が消え去る。佐々木が起き上がったのだ。
「あーそうそう。…そういえば、なんスけどね。」
俺の方を見る事なく、口を開いた佐々木の横顔は
どことなく赤味を帯びていて。
照れ臭そうにも感じられる頭を掻く仕草とともにゆっくりと視線は流れ、俺の目の位置にピントを合わせる。
「…本当は、部屋上がらせて貰った時にはもう思ってて、いつ言おっかなーって考えてたんスけど~…。」
……………え。何を?
待ってくれ嘘だろ。おい、佐々木。
まさか……まさかなのか?
来た時から?
おま、ちょ、一体何を思っていたんだ何に気付いていたんだ。というか気付いていたならそっと数分姿をくらませろよ。
気が遣えないどころの騒ぎじゃないぞ。
みるみるうちに顔だけではなく、身体中が熱くなる。全身の血液が沸騰でもしたんじゃないかと思う程のその熱に、頭までクラクラしてくる始末。
…あぁもう、終わった。
あのコンビニにはもう行けないし、メッセージアプリも今日限りでアカウント消去だ。なんなら番号も変え、最後にここから引っ越す所までもを計画立てたその時だった。
「ずっと我慢してたんだけど……トイレ行っていいスか?あっちでしたっけ?」
………。
…………。
………………………。
もっっっっと早く行けよ!!!!!!!!
何我慢してるんだよこちとらお前の膀胱事情に振り回されてさっきは期待まで裏切られて散々だったんだぞ!!
「あっちだ。部屋を出た廊下をずっとまっすぐ行くんだ。遠回りするなら奥の部屋を経由してもいいぞ。」
「いや限界なんで近道させてください。」
「限界まで我慢するもんじゃないから早く行け。」
「ちょっとウキウキしてません?」
「誰がするものか。」
している。
完全にウキウキしている。…言わないが。
首を傾げながらもトイレ方向に歩いていく佐々木をよそに、俺は恐らくここ数年で一番深い、安堵のため息を吐いた。
よし…これで心置きなくパンツが履ける。
振り返れば、パンツの収納されているクローゼットがもうすぐそこだ。
俺は勢いよくソファから立ち上が…………れたらよかったのに。
「~~~っい゛ぃ゛…。」
当たり前といえば当たり前だ。
ついさっきまで自分よりもデカい男の頭が乗っていた膝は言う事を聞かず、猛烈な痺れが全身をめぐり、堪らずその場に崩れ落ちた。
嗚呼、こんなに近くに居るのに。
離れる事など無いと、いつだって俺に寄り添ってくれていた君が
今はこんなに遠い。
…… お れ の ぱ ん つ 。
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