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法月の案内でタクシーが辿り着いた先。それは、俺の想像など遥かに超えた大変豪華な旅館だった。
スケジュールを確認してみるに、今日はここでチェックインさえ済ませれば好き勝手して構わないようだ。
…これでは本当に、出張などではなくただの小旅行の様な気もするな。
俺が部長のサブとして担当している客であったが、それでも数回は顔を合わせた事があり、その度に優しさや人柄の良さは十分伝わってきていた。店を畳む彼なりの、これまでの感謝の気持ちから来るもてなしなのだろう。
部長の都合が合わなかったのが残念だ。
「それでは、中に入りましょうか。」
「…あぁ。」
立派な入り口の引き戸を開ければ、艶めく木製の太い柱や値段など聞く勇気も出ないような壺。
俺の半身ほどもある花瓶には、季節の花が美しく飾られている。
…これは相当良い値のする宿なんでは無いだろうか。
早々にチェックインを済ませると、法月は景色やら何やらをパシャパシャと写真に収めている。いくら法月とはいえ、ここまで立派な建物には高揚する心を抑えられないのだろうか。
そんな風に思っていれば、ふと俺に振り返った彼とばちりと目があう。
それを逸らす間も無く、背景に似合いすぎる高貴な微笑みを向けられてしまい、不覚にも胸がドキリと鳴った。
「ふふ、すみません。大人気ない事をしてしまって。」
「いや…構わんが。」
「竹内さんと初の、2人きりのお泊まりですから。
僕なんだか調子に乗ってしまいまして。」
「……構わんなんて嘘だ。」
「そんな事おっしゃらないでくださいよ、はは。」
こいつは何処までも…油断のならない奴だな。
部屋に入ったらきちんと鍵を閉めなければ。俺の寝ているうちに夜這いでもされたら敵わん。
…ここ最近で、俺の思考回路はまるでおかしくなっている。
普通、良い大人のおっさんが同じ歳の男に襲われることを恐れて戸締りの徹底などするか?というか、部下相手にどんな怖がり様なんだ。
だが俺は…高校生にまで、襲われるような……弱いおっさんであるわけで…。
って、ダメだ。今は仕事だ。ヤツの事を思い出している暇はない。俺は俺に課された職務を全うするまで。
「まあ先ほどのお話は冗談です。」
「冗談に聞こえなかったぞ…勘弁してくれ。」
俺の心臓に悪いから、その類の話は是非ともよしてもらいたいものだ。冗談と言いながら、その目が笑っていない事に俺は気付いているからな。
「本当は…この写真、娘に見せてあげたいんですよ。今日ここへ来る前に知り合いの家に預けてきたんですが…パパと離れるの嫌だって、かなりグズられてしまいましてね。」
「え?」
「え?」
…え?
いや、待て待て待て。俺に散々好きだの襲うだのと危ない発言を繰り返しておきながら…。
「…こ、子供がいるのか?」
「はい。もうすぐ4歳になる可愛い一人娘です。」
何処まで行っても…お前を理解することは俺には出来ないようだ。
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