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客一人居ないじゃないか。
こちらとしては助かるが。
店の出入り口から一番近い駐車場に車をとめ、半渇きのシャツの上からずっしりと重くなったジャケットを羽織った。
流石に濡れて透けたシャツで店に入るのはみっともないし、社会人としてどうかと思うしな。
少々気持ち悪いのは我慢するとしよう。
鞄の中から探り当てた長財布を脇に挟み、駆け足で入り口へ向かう。
「いらっしゃいませこんばんはー!」
俺をいつもと変わらぬ元気な声で迎え入れたこの男。
つい昨日、マスクを取った方が良いなどと声を掛けてきた高校生アルバイトの佐々木だ。
「75番…3つ。」
「め、……メガネですか…?
マスク無しのメガネですか…?」
「?……あぁ。」
何故かめちゃくちゃ動揺している佐々木に再び催促すると、慌てたようにケースから5つも箱を引っ張り出した。
まったく。
どいつもこいつも何だってんだ。
俺だってマスクが顔に張り付いているわけでもないし、視界が絶望的な日にはメガネもかける。
──慣れた手付きで渡される釣りを受け取り、さあ早く帰ろうと一歩を前に出したその時
ふと、気になった。
「…なあ、帰りはどうするんだ…?」
「え、俺ですか?」
「…あぁ。」
いきなり話題を振られたことに驚いたのだろう。
なんたって、俺は普段佐々木に対して
“あぁ”か“75番”くらいしか言わないんだから。
だが、昨日の夜の光景を見てしまったがために。
それを今思い出してしまったがために。
自分の中で、この疑問は聞かねば気が済まないところにまで到達していたのかもしれない。
だって佐々木は昨日の夜も雨の中を──…。
「俺はチャリです!もう上がりの時間っす!」
…ほら見た事か。
「お前はアホか。死にたいのか、この嵐の中なにがチャリです!だ。」
「あ、でもチャレンジしてやばそうならここ戻って来て泊まります!着替えも持ってきました!」
「………。」
呑気な口調で、いつも元気を分けてもらっていたその笑顔で当たり前のように答える佐々木には、
店の外が見えていないのだろうか?
俺が入店したときの突風に気が付かなかったのだろうか?
まぁそもそも学校終わりにここへ来ている時点で
危機感もくそも無いような気もするが。
…これはお人好しという訳ではない。
そう、自分に言い聞かせる。
社会人として…もとい、人として
目の前で自殺行為に走ろうとする者を放っておけるか?
そんなわけ無いだろう。
まあ、ただの客である俺を信用できないと言われればそれまでだが…
一応……一応、大人の武器を見せつけてみる事にした。
「もう終わるなら…車で送ってやる事も出来るが……。」
すると、それはそれはわかりやすく目を輝かせる佐々木。
勿論返事は予想通りのものだった。
「えっ、まじッスか?
ありがとうございます〜〜っ。」
思えば、車に人を乗せるだなんて身内以外では初めてだ。
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