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助手席の窓ガラスをノックするだけの、たった数秒で濡れ雑巾と化した佐々木。
鍵が開いていることを示すよう、手で招いた。
流石に鍵を閉めて意地悪するような年齢でもなければ、それが許される天気でもないからな。
隣に乗るのも、隣に乗せるのも苦手なのは変わらない。
人との接触をなるべく避けて人生を歩んできた俺としては、息苦しいのが本音だ。
だがこの状況で後ろに乗れだのなんだのといちいち文句を言っていたら、佐々木が濡れ雑巾より下の…そうだな、雑巾のお浸しになってしまう。
…あぁその、なんだ。例えが下手なのは大目に見てほしい。
所詮頭の中で唱える独り言なのだから、誰にも突っ込まれる事は無いのだし。
俺の予想通り助手席を開けた佐々木は、身体の前にパンパンに膨れ上がったスクールバッグを乗せる。いやいやそれではお前が乗るスペースが無いじゃないか。片尻置ければ奇跡だぞ。
仕方なく鞄を抱え、その重量感に度肝を抜かれた
……が、
ここは俺の必殺☆ポーカーフェイスで呻きそうになるのを堪え、平静を装い後部座席に転がした。
横になったらいけないものが入っていないといいが。
もしそんなものが入っていたとしても俺はもう知らん。時には悲しむことも人生の勉強だ、若き者よ。これ以上は俺の腕がもげる。
「まじ迷惑かけてすいませんっ、お願いしまーす!」
言葉とテンションが合っていないと思うのは俺の気のせいだろうか。
佐々木はレジカウンターの向こうで見せるそれと変わらぬ笑顔で
芳香剤の匂いを嗅いだり、煙草用に取り付けたドリンクホルダーの飾りをいじったり。
何かと忙しなく動き回っている。
これが通常運転ならば大したものだ。
「…バイトお疲れ様。
別に力を抜いてもらって構わない。」
「ほんとっすか?じゃお言葉に甘えて…。」
俺を客だと思い会話を続けようとしているのであれば、そのような気遣いは必要ない。
そういう意味で言ってやった事なのだが…。
佐々木は何を勘違いしたのか、座席を倒して自分のスクールバッグを掴んだ。
おもむろにチャックを開け、半分潰れたおにぎりとタルトケーキを取り出して。
「これ今日までの賞味期限で貰ってきたんスよ!
竹内さんどっちがいいっスか?
具だくさん生姜焼きおにぎりとチーズタルト!」
いや、うん。
そうじゃなくてだな。
学校を終え、立ちっぱなしのアルバイトを終えて、疲れているのと決めつけた俺が悪かったのか。
元気いっぱいのDKは、更に楽しそうにお喋りを続ける。
それはたとえ俺が前を向いていても、隣で放たれる声色から、いつもの笑顔を簡単に想像出来るほど、だ。
──それにしても…生姜焼きとチーズタルトか。
なかなか悩ましい質問を吹っかけてくるものだ。
自分の欲のままに答えを出すのなら
……迷うことなく、間違いなくタルトを選ぶ。
ファ○マのチーズタルトが不味い訳がない。
サ○クルKが健在の頃は、仕事終わりにタルトの為だけに足を運んだものだ。
休みの日でも、この濃厚なチーズタルトの為ならば外に出ようと思う事が出来た。
いうなれば休日の俺を脱ヒッキーさせてくれた天使のような存在。
…だが、俺は本当にタルトを選んでしまっても良いのだろうか。
「やっばwwwこのオッサン似合わねえもん食ってるウケる」とか思われたりしないだろうか。
ううん……難しい質問だ。
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