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横並びに座っているというのに、左半身を限界まで捩って俺を向く佐々木。
正しすぎる姿勢と深い礼に思わず笑いそうになる。
舎弟か、お前は。
既に何度も呼ばれているのに、わざわざ「竹内と申します」とも言えず。俺に出来る事と言えば、マスクの向こうには決して聞こえない小さな声で返事をするしかないのだが。
そんなこんなで来た道を引き返す最中、ふとある事を思い出した。
特に面白くもない事を楽しそうに教えてくれる佐々木がこれから家に来る訳だが、そういえば俺の家には飯らしい飯が一切置いてない。
俺だけならまだしも、成長期真っ只中の高校生男子であれば鮭とばと鯖缶では絶対に腹が減る。
魚が嫌いなら飯無しだ。
…自宅に閉じ込めて拷問となれば、流石に塀の中にぶち込まれる未来が見える。
道沿いに見えた弁当屋は当然閉店していて真っ暗。この時間で食べ物を入手出来る場所といえば──。
仕方なく本日3度目のコンビニに行き先を定めた。
客一人いない。わかっているさ。
嵐の中蓄えも無い客を見れば、店員も心の中で嘲笑うに違いない。
「…何か買ってこい。」
「……あ、飯すか?」
「…あぁ。……家にまともなもん無いから…。」
店の入り口近くに車を止め、財布を取り出すとそれを佐々木に押し付けた。
俺はこれ以上濡れたくも、笑われたくもないからな。
佐々木は反射的に受け取ってしまったものの、ぎょっと目を見開いては俺と財布とを見比べる。
「…あれだけじゃ晩飯足りないだろう。朝の分も。」
「え、いやそんくらい俺自分で──。」
「…ったく、ガキなんだから大人に甘えろよ。」
「………え。」
お、何かマズい事を言っただろうか。
ペラペラと…そりゃもうお前は黙ったら死ぬ病気か何かかと思う程ペラペラと話し続けていた佐々木が黙ると、もしかして何か悪い事でもしてしまったかと意味もわからず罪悪感に駆られる。
あれか、ガキか。ガキがいけなかっただろうか。
俺のようなアラサーに足をかけた人間からすれば、学生はガキ以外の何物でも無いと思ってしまうのだが
この先親元から自立していく、所謂年頃の男の子にその発言は地雷だったか。
仕方ない。ここは佐々木の言うとおり、自分の飯くらいは自分の持ち金で調達させた方がこいつのためか。
無言になった佐々木は、何やら考え込むように拳を顎に当てている。
意地でも大人ぶって財布を突き返すか、遊ぶ為の金を自分の食費に使う事を渋りアラサーリーマンに甘えるか…。
とまぁそんな事を悩んでいるんだろう。
いつも世話になっているから、これくらいはさせてくれ。そう言っておけば佐々木も甘える気になるだろうか。
「…その、いつも──。」
大きく息を吸い込み、今度は雨にもマスクに遮られない音量を意識して吐いた俺の言葉には目もくれず、
佐々木はゆっくりと顔をあげて言った。
「…竹内さんだったんスね。
俺を助けてくれた人……。」
もう本気で意味がわからない。
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