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「格好悪い所見せてすいません…。」
先に口を開いたのは佐々木だった。
その手は今もなお、俺の袖を掴んでいる。
「別に良い。俺だってこんな背格好を見られたところなんだ。お相子で良いだろう。」
「………ん、マジ可愛いスもんね。竹内さん。」
おいこら。人が慰めてる時に何て事言いやがるんだ。
空いている方の手で肩を小突くと、佐々木は力なく笑い、また「すいません」と謝った。
「あー…昔とか……何かあったのか?トラウマというか…その、雷が、苦手な理由とか…。」
そこまで言ってハッとする。
たかが店員と客の関係で、こんなに踏み込んだ話を持ちかけてしまっていいのだろうか。
これは距離感を間違えた、と。
だめだ。この真っ暗闇の中では、俺自身もあまり冷静とは言えないのかもしれない。
それだけじゃない。
今までこの家には誰一人として入れなかったのだから、自分のテリトリー内に他人がいると言う事だけをとっても通常とは言い難いわけで。
仲良くなって呼んだんじゃない。人助けの為なんだ。そこを履き違えるな俺の脳味噌よ。
「いや、すまない…何でもない。無理に聞こうなんて思ってないんだ…。」
「はは。気遣わなくても大丈夫っすよ。
…ナイフの事、思い出したならあの時俺がどんな状態だったかも覚えてますか?」
「………あぁ。」
佐々木がぽつり、ぽつりと話し始めた話。
正直俺には想像もつかない程壮絶で…そんな話をさせてしまうきっかけを作った自分を強く恨んだ。
「…恥ずかしい事なんスけど、俺あの頃ずっと虐められてて。
一度だけ、学校の掃除道具入れに閉じ込められた事があったんスよ。」
身動きもろくに取れない狭い空間。
しかも、いたずらに使われないよう鍵付きの物だったという。
担任の教師が信頼を置いて鍵を渡したのが当時のクラス委員。あろうことか、佐々木への虐めはその子供が主犯格だったのだ。
恐怖のあまり声を出すことも出来ず、そこへ閉じ込められたまま明かした一夜。
その日も、今日のような嵐が吹き荒れていた。
いつまでも動かない雷雲。
暗く、閉ざされた空間。
聞こえるのは、今にも割れそうな窓を叩き付ける衝撃音。
まだ小学生の子供が、そんな悍ましい体験をしてトラウマにならないわけがない。
俺の中の普通では考えられない事を少しずつ口に出す佐々木に、胸が痛んだ。
今、佐々木は一体どんな顔をしているだろう。
明かりが付いた時、俺は佐々木にどんな顔を向ければ良いだろう。
「──それからどうしても、暗くて狭い所とかで雷鳴るのだけは無理なんスよ。条件揃っちゃったっつーか…。」
情けない。そう自身を卑下する佐々木の声があまりにも苦しそうで
つい、大きな身体を抱き寄せた。
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