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外はまだ薄明るく、いつもならば絶対に書類の山に襲われているであろう定時に……何と、会社を出る事が出来た。
一歩後ろを歩く法月はすれ違う社員一人一人「お疲れ様です」だの「お先に失礼します」だのと忙しそうに頭を下げる。
流石可愛がられているだけの事はあるな。
「竹内さん、明るいうちに退社できる今のご気分は?」
にこにこと悪気もなさそうに問う法月に呆れつつも、彼の助けあっての定時退社だと自身に言い聞かせ、小さく頷いて前を歩いた。
待ってくださいと着いてくるかと思えば、意外とそんなこともなくて。
これがあのワンコならば…なんて考えてしまう自分が怖い。
どこにいても、何をしていても頭の中は佐々木ばかりで
それはどんなに仕事に追われた所で、結局無駄だった。
駐車場に辿り着くと、まず目に入ったもの。俺の車の隣に止められた、物凄く見覚えのある傷一つない立派な車だ。
…思い出すのにそう時間はかからなかった。
だって、ほら。隣に立つのは──。
「お待たせしました。行きましょうか、竹内さん。」
「……なんで横につけるんだ。」
「え?偶然ですよ。」
「……もういい。」
胡散臭い笑顔を浮かべたまま車に乗り込む法月を見て、わざわざ定時に間に合うように仕事を片付けた自分が馬鹿だったと後悔する。
いつでも定時丁度に上がる法月だから、上司の俺が仕事後に連れ回すというのに迷惑はかけられないと、そう気遣ってやったというのに。
なんだその顔は。
バカにしてるのか。
この野郎。
せめてもの仕返しにと法月の準備が出来ているかかど確認もせず発進させた。
一人で店に行く勇気なんてこれっぽっちもない癖に、そんなふうに意地を張って見せて。
早速いたたまれなくなり、すぐに後ろを確認すれば……しっかりついてきてくれていた。
デキる部下にほっと胸をなでおろした瞬間である。
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