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「──という訳で、急ですまないが明後日から宜しく頼む。」
「…はい。」
酷く動揺していた。
昨日、佐々木が家を出た後もずっとあの感覚が頭から離れる事はなかった。
佐々木の考えが全く分からない。
佐々木にとって俺は何だ。いざヤツが好きな男に触れるという時のための練習台か?それとも単なる欲求不満からくる性欲処理か、もしくは……ただの火遊び。
「この件なんだが、研修がてら君もついていきなさい。」
「え…僕ですか?僕はその、家庭が…。」
「こんな貴重な機会はめったに来ないんだ。」
「わ、かりました…。では竹内さん、よろしくお願いします。」
「…あぁ。」
ふざけるな。お前のせいで俺はこうも毎日精神をすり減らしていつ捕まるか、いつバレるかと不安で消えてしまいたいくらいだというのに。
佐々木に持つべきではない感情を遂に自覚してしまえば、気持ちはもっと堕ち込んでいく。
これまでの人生で、一度も関わる事の無かった世界。
特殊であり、異常である。想像も出来なかった世界。
赤の他人が誰を想っていようが嫌悪感を抱いたり差別したりすることはない。だが、当事者ともなれば話が別だ。
加えてまだ10代も後半に差し掛かったばかりの学生。
いくら大人びていようと、いくら馴れていようと、子供なのだ。いくら俺に笑みを向けてこようと、いくら俺をさも特別かと思わせるような言動をしようと、彼には俺ではない特別な想いを寄せる相手が居るのだ。
叶わない恋。
そう言ってしまえば聞こえはいいが、実際のところ切なさや儚さなど霞んでしまう程の、とてつもない不気味さを纏っているわけで。普通ではないそれを他人事のように捉えていた俺自身、本心では偏見の目で見ていたのだと痛感する。
だから、あの後すぐにスマホを鳴らした『伊織』の表示を無視し、二度目の風呂へ入った。今度こそ下着を忘れる事なく。
なかなか寝付けなかったせいで今日は朝から頭が痛い。雨でもないのに痛む頭が佐々木のせいだと理由づけられてしまう、笑えるほど正直な身体に反吐が出そうだ。
俺は、俺は……。どうしたらいい。
今までとは違う。人を好きになるというその心理が、こんなに苦しいものだとは思いもしなかった。
「──さん、竹内さん!」
「はっ!な、なんだ…法月か。どうした。」
「どうしたも何も。降りる駅のアナウンスが始まっていますよ。」
「…は?」
いや、何処だここは。何故俺は今新幹線に乗っているのだ。
それもキャリーケースまで持ち込んで、普段ならばまず乗ることはあり得ないグリーン席の窓際に。
…法月と。
「ここ数日の竹内さん、仕事は勿論こなしていますが心ここにあらずといった具合でしたので…心配ですよ。」
「い、いやそれよりもだな、その…ここは一体。」
「あ、停まりましたね。早く出ますよ。
…はぁ~、初めて来ましたよ。泊まりの出張と聞いて初めはどうしようかと思いましたが、いい所だといいですね。」
「……ん?!」
「さあ、行きましょう。」
「………あぁ…。」
佐々木が脳内を占拠していたこの数日の間に、どうしたものか俺は法月と2人職場から遠く離れた地へと足を踏み入れていたのだ。
…え?
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