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ちゃらお君の憂鬱
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ほとんど人の通らない薄暗い路地にある一軒のバーにその青年はいた。週末には純粋に出会いを求める者や一夜限りの恋人を探す者たちで賑わうこの店も平日の深夜である今は他に客はいない。
ムーディーな音楽の流れる店内は恋人同士が見詰めあって酒を飲み交わすには最適な雰囲気だが、カウンターに座るその青年は随分と憂鬱な表情で中身の半分ほど入ったグラスを見詰めている。
青年の名は瀬戸恭弥。男であるが綺麗と表現しても差し支えのない顔立ちは女たちが放って置かないであろうことが窺える。すっと通った鼻筋に形のいい唇、伏せがちな長いまつ毛にムラなく染められた金色の髪。それらは人の目を引く。しかし何よりも魅力的で蠱惑的なのは日本人離れしたその色素の薄い瞳だろう。琥珀色のそれはグラスに注がれたウイスキーとよく似た色をしている。
恭弥のその琥珀色は虚ろだ。もう何杯目かわからないウイスキーの入ったグラスを見ているが心ここに在らずである。
(なんでだろ?仲間だと思ってたのになぁ…お前は、お前だけは変わらないと思ってたのになぁ…)
裏切られた、と恭弥は思う。でもそうじゃないでしょ、とも思う。人は変わるものだ。変わったあいつは何も悪くない。むしろいい変化と言えるだろう。
(おめでたい事なのに、素直に祝ってはやれないんだよなぁ…)
ごめんね親友…と心の中で謝ると恭弥はそのまま目を瞑って意識を手放した。
その様子を静かに見ていたマスターは常連である恭弥に対して何かを言うこともなければ、寝落ちられたからといって追い出すこともしない。珍しいことだと思いつつ手元の作業を再開させた。
…………
ふいにチリンともカランとも取れる入店音が響いて出入口の扉が開く。マスターがそちらを向いて「いらっしゃい」と声をかけようとして辞めた。
「お前か」
「随分な挨拶じゃねーの」
「こっちに戻ってきたとは聞いていたが、なんの連絡も寄越さなかったくせによく言う」
「それなりに忙しくしてたんだよ。それに、悪かったと思ってるからこうして店に来たんだ」
肩を竦めてカウンターまで歩いてきた男がふと横を見る。
「こいつ…」
「あぁ、常連なんだが今日は珍しく潰れてな」
「ふぅん?」
興味深そうに男は恭弥に近づき隣に座る。肘をついて恭弥を眺める男の目は獲物を狙うもののそれだ。マスターは何か言いたげだったが言っても無駄かと諦める。
「何飲む?」
「んー?こいつと同じの」
獲物から視線を外すことなくそう答える男を呆れた目で見つつマスターは酒を注ぐ。
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