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ちゃらお君の憂鬱(2)
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「ほらよ」
そう言って差し出されたグラスに全く興味を示さない男は遂に恭弥に手を伸ばした。さすがにマスターも止めようかと思ったが、ここは客同士が"そういう相手"を探して訪れる場でもあるのだ。無粋か…とマスターは何も言わずに店の奥へと去った。
それを気配で感じ取り、マスターがいても遠慮などするつもりはなかったが人目もなくなったと男は満足げだ。そして恭弥の髪に指先で触れる。想像以上に柔らかく滑らかなその感触に感心しつつ流れ落ちていた髪を耳にかけてやる。顕になった顔はやはり見覚えがあり、予想通りの人物で間違いない。
(瀬戸恭弥…だったか)
男、美津島静(みつしま しずか)はいつか生徒会室で見た恭弥の生意気そうな態度を思い出して嗜虐的な表情で笑った。
(こんなとこで出会えるとはね…)
髪を梳くように頭を撫で、ピアスの多い恭弥の耳を形を確かめるように撫でる。ピクリと瞼が動いた気がした。しかし静はやめることなく撫で続ける。もぞりと動いた後ゆっくりと瞼が開き、恭弥の琥珀色の瞳が現れる。
むくりと起き上がった恭弥はぼーっとまだ意識の覚めきらぬ顔で静を見た。夢見心地の恭弥はすぐ顔の横にあった静の手に無意識に擦り寄っていた。
静の目が、ゆるりと甘く、溶けた…
その褒めるような目に釘付けになった恭弥はそのまま頬や喉元を擽るように撫でられるのを甘受する。
普段の恭弥ならば他人に頭や顔を触れさせるなど天地がひっくり返ろうとも有り得ない事だが、この時はタイミングが良かったというべきか悪かったと言うべきか…傷心とまでは行かずともそれなりに沈んだ心持ちでセーブをかけることなく酒を飲んだ。そして潰れた。
こんなことを言えば本人は怒るだろうが、恭弥は本来心の強い人間ではない。のらりくらりと躱し、本心を悟らせないようにしているが実の所は脆く弱い。そのことを知っているのは幼なじみたちくらいだが、彼らにさえ弱味を見せることは今はもうない。
そんなわけでたまたま偶然にも恭弥が最も知られたくない弱い部分が甘えたいという欲望となって表に出てしまい、丁度静がそこにつけ込んだという形になった。
未だ意識のはっきりしない恭弥を静は撫で回して時たま「いい子」などと呟く。酒と眠気に惚けた頭で恭弥が考えられたのは「気持ちいい」と「嬉しい」くらいで静の行動を止めるという思考には至らなかったし、自身の状況を客観的に見ることなど出来るはずもなかった。
結局もう一度恭弥が寝落ちるまで静は酒を片手に撫でて褒めて満足するまで恭弥の相手をしてやった。それは恭弥にとっては経験したことの無いほどの充足感で、憂鬱だった心など忘れて幸福とも言える気分で眠りに落ちた。
自身に寄りかかって腕の中で眠る恭弥を静は愉悦の滲む顔で眺めていた。
(瀬戸恭弥…逃がさねぇよ)
甘く優しげな表情の瞳の奥にはやはり嗜虐的な色が窺える。カウンターの内側に戻ってきたマスターは「満足したならさっさと帰れ」と野良猫でも追い払うよいな仕草で言う。
「来てよかったよ」
そう言い静は恭弥の分も纏めて金を払うとよいしょと恭弥を抱き抱えて店を出いく。その背をマスターは静かに見送った。
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