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ちゃらお君の拒絶(2)
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静の家を出た恭弥は大通りでタクシーを捕まえて家まで帰ってきた。
「ゴルァ恭弥ぁ!どこ行っとったんじゃお前ぇ!最近全然帰ってきてないそうじゃねぇか…って聞いてんのかテメェ!」
「うっせぇ引っ込んでろクソジジィ!」
「んなっ爺ちゃんに向かってその口の聞きかt…バタンッ_
未だ階下からギャーギャーと聞こえてくる声を無視して恭弥はベッドに倒れ込んだ。
(せい…『静』…しずか…何で気がつかなかったんだ…)
「最悪…」
鼻の奥がツンと痛む。しかし恭弥は泣かない。あんな男のためになど泣いてやるものかと耐える。
騙されていたことはショックだったが何よりも、『せい』と『静』の両方に自身を知られていたという事実が怖くて仕方がなかった。
『せい』の前での恭弥と、その他大勢の前での恭弥は別人と言っても良いほどに違う。恭弥はそのことをちゃんと自覚している。恭弥がせいに見せていたのは普段は抑圧され、隠され、自身すら偽っていた恭弥の根っこの部分だ。普段の恭弥を知らない『せい』だからこそ見せることができ、逆に『せい』には学校などでの自身の姿は見せたくないと思っていた。
強がって、怯えて、隠して、笑って、嘘で塗り固めた、そんなずるくて汚らしい自分が恭弥は大嫌いだから。
(ずっと、心の中で笑ってだんでしょ。こんな俺をばかにしてたんだ…)
「嫌い…嫌いだ、全部、みんな…せいなんて…」
『大嫌いだ』
そう言いたいのに…どうしても口に出すことはできなかった。
許せない。許せるはずがない。ずっと騙されていたんだ、当然だろう?
そう思うのに、それでも良いから…騙されていたのだとしても、向けられた表情は…言葉だけは嘘でなかったと言って欲しい。過ごした時間の全部が偽物だなんて、そんなのはあんまりだ…
(痛い…痛いよせい…こんなに痛いのに、何でみんな恋なんてするのかなぁ…)
「馬鹿だなぁ…………っ……ぁゔ、ゔぅ……うぇ……せ、い…」
こんな時でも浮かぶのはせいのあの褒めるような笑顔で、会いたいと思うのも、抱き締めて慰めて欲しいと思うのもせいで、大丈夫だよ良い子だねって撫でて欲しいのもせいだけなのだから、恋というやつは残酷だなと恭弥は思う。
泣きたくなくて、必死に押し殺そうとすると余計に苦しくなった。胸に痛みの元のような何かがつっかえて、それがどんどん溜まって身体の内側で爆発しようとしている。ぎちぎちと溢れて張り裂けそうになるのを奥歯を噛み締めてただただ耐え忍ぶ。
夜になって痛みは苦しさに変わって、日曜には無力感に変わった。また、恭弥の心にはぽっかりと大きな穴が空いて、恭弥は何となくそれが一生埋まらないだろうなと思った。
でもそれで良いとも思った。もう、恭弥は静以外はいらないから。
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