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「……できたら……外して」
ゆっくりと小さく、努めて冷静に言ってみる。
また急変してカッとなるかもしれない……
僕の声に気付いたハイジが、顔から手を外してこちらを見る。
その瞳は、小さく揺れるだけで、僕を映してはいないようだ。
「ダメだ……外せねー」
「………」
まるで過呼吸の様に呼吸を乱し、再び両手で顔を覆う。
まるで何かに怯えるように、両肩を震わす。
「ああっ……違ぇよ、くそっ」
無機質なほど白金色した横髪を無造作に鷲掴む。
「外してやる……けど、逃げんなよ」
「……うん」
……ハイジ……
一体何があったの……?
何がハイジをそうさせてるの……?
その後のハイジは、優しかった。
手錠を外され身を起こした僕に、まるで壊れものでも扱うかのように優しく抱き寄せる。
それは、僕が家出をして初めてハイジと体を重ねた……あの時の事を彷彿とさせた。
「悪ぃかった……」
フェイスラインに手を添えられ、少し角度をつけたハイジの顔が近付く。
白金の髪がさらりと揺れた後、その唇が僕の唇に重なる。
……その触れ方も、さっきの乱暴さは微塵も感じられない。
ああ、これがハイジだ……
僕の知ってる、ハイジ。
閉じた瞼の裏に、あの時の光景が浮かぶ。
まだ少しだけ震える指が、フェイスラインから首筋……そして鎖骨へと滑り落ちる。
……ただ、触れただけのキス。
柔らかな感触だけを残し、ハイジの唇がゆっくりと離れる。
「痛かったよな……」
鎖骨に触れていた指が離れ、腫れ物にでも触るかの様に、僕の首筋をそっと撫でる。
先程の圧痕が、浮き出てしまったのだろうか……ハイジの視線が、其処へと向けられる。
「……オレ、すげぇ……自分が怖ぇよ……」
怯えた様に、瞳が小さく揺れる。
「襲われてるさくらを見た瞬間……オレ、訳分かんなくなっちまって……」
「………」
「どうしていいか、解んねぇよ」
僕から手を引っ込め、自身の髪を搔き上げる。
そしてそのまま髪を握り締め、思い詰めた様に視線を下げた。
「………」
そういえば……
過去に一度だけ、ハイジが狂気的になった事がある。
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