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「さっきも……本気でさくらを……」
あの日の夜も、こんな感じだった。
殴るのを止められなくなった事への罪悪感が一気に押し寄せ、ハイジの心を押し潰そうとしていた。
「………」
ハイジに手を伸ばす。
そっと肩に触れれば、ハイジはビクンッと体を震わせた。
「……いいよ」
顔を少し上げたハイジと目が合う。
その瞳は、まるで子供のように潤み、一心に僕を求めた。
「さくら……」
小さくそう唇を動かしたハイジは、今度は僕に強くしがみつく。
そして鼻を擦り付ける様に、僕の首筋に顔を埋める。
……はぁ、はぁ、
荒く熱い息がかかる。
「……さくら、さくら」
吐息交じりに繰り返し僕の名を呼び、僕の首筋や鎖骨に唇を当て、貪る様に激しく食む。
そのままゆっくりとベッドに僕を倒し、発作の様にそこに吸い付くと、熱い舌を這わせる。
ハイジの指が僕の腕を辿り、やがて手のひらを見つけると、指を交差する様に絡ませた。
「………」
地面に倒れた男が二人。
茶髪は急所の一撃で気絶している。
一方の金髪は、鼻がへし折れ頬の一部が陥没し、血だらけで赤黒く、人相が解らなくなっていた。
それをチーム仲間が取り囲み、頭を寄せて見下ろす。
「……スゲェ」
「これはマジでヤベぇって」
「で、どうすんだよ、ハイジ」
「……心配ねーよ」
ハイジは顔色ひとつ変えず、ポケットから携帯を取り出す。
「悪ぃがお前ら、さくらを連れて先帰っててくんねーか?」
ハイジの指示に、仲間達が訝しげにお互い顔を見合わせる。
「……ハイジ、何する気だよ」
その言葉を無視し、ハイジは僕に顔を向ける。
……その瞳は鋭く、まだ邪鬼を孕んでいる様に見えた。
「……おい、モル」
器用に携帯を片手で操作し耳に当てると、ハイジはモルにその瞳を向けた。
「お前は残れ」
「……了解ッス!」
それまで円陣の中で黙っていたモルが、笑顔で即答しながら敬礼する。
モル以外は、倒れた男からバラバラと離れ、停めたバイクの元へと向かった。
その中の一人が、振り返って僕を呼ぶ。
「……姫」
……はぁ、はぁ、
先程の無理矢理とは違う。
だけど、初めての時とも違う。
あの日の夜も、こんな風に怯え僕に甘えてきたけれど……
……あの夜よりももっと怯えきって、僕にのめり込んでいる。
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