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その瞳が、僕から簡単に離れる。
無表情な横顔……
人が変わったように、纏うオーラさえもガラリと変わってしまう。
……待って、ハイジ……!
ウエイターの後について行くハイジに手を伸ばす。
瞬間、ハイジが振り返る。
その瞳は既に闇に支配され、僕を捉えながらも僕が見えていない様子だった。
こうなってしまったハイジを……止められる自信はない……
……だけど……
後悔の念に駆られ、苦しむハイジの姿も見たくない……
「………」
僕を制する鋭い眼圧。
それはほんの数秒……だけど確実に、僕の精神をも串刺しにする。
動けなくなってしまった僕を残し、無言で向ける背。
「………」
あの冷徹な瞳は、容赦なく誰かを傷付けようとする瞳だ……
「……ハイジ」
その背中に小さく声を掛ける。
もう一度手を伸ばして引き止める勇気は、なかった。
「……さくら、いい子してろよ」
ハイジの低い声……
綺麗な白金の髪が、ゆらりと揺れる。
「………!」
問いかけに、答えてくれた……
たった、それだけ……
……だけど、そこに微かな希望が見える。
ハイジは……自分を見失ってない……
ほんの僅かだけど、ホッと胸を撫で下ろす。
そして、ドアの向こうへと消えていくハイジの背中を見送った。
……パタンッ
ドアが閉まる。
瞬間、ハイジのいなくなった室内の空気が変わる。
「………」
それを肌に感じつつ、ソファに腰を下ろす。
……大丈夫だ
この部屋にいるのは、太一と隣の男だけじゃない……
テーブルを挟んだ向こうに見えるのは、ハイジを慕うチームの三人。
ジンを片手に一台のスマホを覗き込んだ後、一斉に足技ダンスを競い合う。
「……バーカ、違ぇって!」
「クッソ……酔ってきた……」
「……飲みが足りねぇんじゃねーの?」
……キラキラと輝く笑顔。
馬鹿みたいに騒いで、馬鹿みたいに笑って……楽しそう……
見ているこっちまで、笑みが溢れてしまいそうになる。
その光景は、楽しかった溜まり場での生活の記憶を、簡単に掘り起こす。
……懐かしい……
そんな事を思いながら、食べかけの焼飯に手を伸ばした時だった。
「………!」
隣にいた男の指が伸び、僕の前腿に触れ……感触を確かめる様にするりと滑る。
その瞬間、置かれた状況を思い出し、背筋が冷たいものが流れる。
それが次第にじっとりと、汗ばんでゆく……
「……逢いたかったぜ、姫」
顔を寄せられ、耳元で熱い息を吐かれる。
「はぁ、はぁ……姫を食ってから、全然オンナで勃たなくなっちまってよォ……ハァハァ……」
「………」
「オカマに手ェ出してみても……コイツの舌が肥えちまって……ハァ、ハァ……姫じゃねーと食いたくねぇってよ……」
……気持ち悪い……
酒の混じった男の口臭が、容赦なく掛かる。男のもう片方の手が、自身のモノを布越しに弄り出す。
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