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いつの間にか降り出した雨。
その雨足は次第に強くなり、捕まえたタクシーに乗り込んだ頃にはバケツをひっくり返した様な激しさへと変わっていた。
ゲリラ豪雨はものの数分で収まり、車を暫く走らせれば……サァッと静かな雨へと変わる。
夜の街に煌めく、雨の中のネオン。濡れた路面に反射する多彩な光。それらが滲んで幻想的に僕の瞳(スクリーン)に映る。
「……アイツと、なに話してたんだ」
運転席の後ろに座るハイジが、僕の方を見ず静かに口を開く。
その横顔は険しく、何処か一点を見据えていた。
バックヤードを出ようと麗夜がドアを開ければ、その向こうに立っていたのは……ドアノブに手を伸ばそうとした、ハイジ。
「あ、お疲れ様です」
何事も無かったかのように、麗夜がハイジに挨拶し、その横を堂々と通り過ぎる。
それを見送った後……床にへたりこんでいる僕と目が合ったハイジは、麗夜の肩を掴み力尽くで引き戻した。
「……おい、お前。さくらに何した」
「何って……俺は別に、なにも」
「……とぼけてんじゃねぇよ」
麗夜はハイジを見据えながら、口角を緩く持ち上げ爽やかな営業スマイルをしてみせる。
それが気に食わなかったのだろう。
今にも殴りかかりそうなハイジに、僕は声を掛けた。
「……何も、されてないから……」
立ち上がって転がった椅子を直し、ハイジの元へと近寄った。
「用事終わったなら、早く帰ろう……」
空いた方の手を取れば、ハイジはこれ以上事を荒立てる事はなかった。
……だけど、ハイジの中ではまだ燻っていたらしい。
その矛先が、僕へと向けられている事なんて……その時の僕には知る由もなかった。
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