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「……さくら」
遠退く意識の中で、ハイジの声が聞こえた。
「……知りた、かったんだ……
もっと、ハイジの事」
「……ハイジが、……今、どんな事をしてるのか………
僕は、何ひとつ……知らないから……」
必死で口を小さく動かす。
けど……
床が濡れてる。
頬も、口元も、顎も………なんで………
……声、ちゃんと出てただろうか。
ハイジに、届いただろうか。
全身が痺れて、麻痺して、指先や腿、足先が大袈裟に痙攣している。
「あのホストとは、どんな関係だ」
何処までも、冷め切った声。
答えようと息を吸い込もうとして、やっと気付く。
………絞められて、る。
首輪を顎裏まで持ち上げられている。
ハイジの両手がその隙間に差し込まれ、頚動脈を的確に捕らえ、指を食い込ませていた。
「………」
脳が次第に酸欠となり、頭がジリジリと痺れる。
ドクドクと妙な脈動が強くなり
耳の中が煩いほどゴォーと鳴り響く。
まるで水中に頭から沈められ、溺れかけているかのよう……
嫌だ。
……この感覚。
引き戻さないで。僕を。あの家に。
″あんたなんか、産まれてこなければよかったのよ!″
くぐもった、女の罵声。
涙で視界が滲んだ向こうに、鬼のような形相をした母の顔。
……ごめんなさい。
ごめんなさい、お母さん。
まだ幼い僕が、澄んだ瞳で母を真っ直ぐ見つめ……赦しを請う。
その姿は……人の顔色を伺って、怯えて身を縮めて……何とも惨めったらしくて……
目を背けたくなる。
もう、二度と見たくない。
何かが……音を立てて壊れる。
大切な何かが。
──もし、あの時。
母に首を絞められた時。
死ねたら……良かったんだと思う。
そうしたら……これ以上傷付く事も無かったし、僕のせいで誰かを傷付ける事も、無かったから……
……いいよ。ハイジ。
殺して……僕を。
息の根を、止めてよ……
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