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「あ、そーだ。高野くん学生祭出るかどうか決まってたりする? メニューとか作るから一応聞いて回っててさ」
不意に部長は窓の外から俺の方に視線を移すと思い出したように言った。
もうそろそろそんな時期だっけ。
「あー…すいません。まだ…」
「別に謝んなくてもいーよ。まだまだ先の事だし夏休み前あたりまでに決めてくれれば大丈夫。ゆっくり考えな」
「分かりました」
「良い返事待ってんぞー」
俺が頷くと、部長はにかっと人の好さそうな笑顔を浮かべ「んじゃ」と言いながらひらひら手を振り去って行った。
軽音楽部は毎年ライブコンサートをしていて参加は希望制。
基本的に何でも構わないんだけど、やっぱりバンドグループが大半を占めている。
ただ自分は別にギター演奏をもっと上達させたかっただけでライブがやりたいとか誰かの前で披露したいみたいな気持ちはさらさら無かった。
むしろ個人で静かにやっていたいぐらいに思っている。
だから参加するのをずっと渋っていた。
でも2年はなるたけ参加しなきゃ駄目なんだよな…。
部長と別れて教室へと戻る道中、呑気にそんなことを考えていた俺は教室に入るまで気付かなかった。
その存在は完全に不意打ちだった。
ドアに一歩踏み入れたところでピタッと脚が止まる。
誰もいないはずの教室に、知らない人がいた。
長身で、少し日に焼けた健康的な肌。
学校指定のとは違う制服を着てるところから他校だと分かる。
墨を流したように黒い髪を通り風にさらさらと靡せ夕暮れの中に佇む姿は自然と目を引き付けられて、何処となく儚い印象だった。
普通なら色々と疑問が浮かぶはずだけど、驚きで呆然として立ち尽くしていたら俺の足音に気付いたのかその人がこっちに振り向く。
男目に見てもイケメンだと思う端正な顔立ちが俺に真っ直ぐ向けられた。
「…なんか、用ですか」
何とか言葉を絞り出し声をかけると、ぱちりと一つ瞬きをして口を開いた。
「あぁ…珍しいギターがあるなって思って」
その低い声を聞いてハッとする。
同い年ぐらいの子どもからしたらずいぶん大人びた印象を与えるその声は、不思議と聞き覚えのある感じがした。
今はじめて会った人だし絶対そんなはずは無いのに、酷く懐かしかった。
「ごめん。邪魔したな」
「ぇ、…あ、いや別に…」
よく分からない感覚に頭が混乱してる間に距離が縮まってたらしく、気がつくと目の前まで来ていた。
自分より頭一つ分の高さに自然と顔が上を向く。
目の前の人はスクールバックを背負い直すと「練習、頑張ってね」と言って微かに笑う。
そのまま俺の横をすり抜けて教室を出て行った。
あっという間に遠ざかり見えなくなった背中があった方を俺は惚けたように暫く眺めていた。
まだ胸の中に残るこの懐かしい感じは何なんだろうと首を捻る。
でも結局、その日いくら考えても分からずじまいだった。
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