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5月の海
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唯斗がMVPをとったら岡崎がデートしてもらうとかは?なんて聞こえて、ふざけんな!と叫んだ。
こんなの俺を遊びに誘いまくっては断られ続けてるあいつが乗らないはずがない、と思った。
けど違った。あいつはその発言を謝らせるためにMVPを取りに行くと言い出した。
それからはあいつはダンスの練習に毎日駆り出され、練習ができない間はテストがやってきて。テストが終われば今までよりさらに過酷になったらしい練習。
毎年何人ものリーダー達が熱を出しては倒れ、胃をキリキリ痛ませながら練習する。意味がわかんねー。
体育祭まではあいつのおかしな発言を聞くこともなかった。少しは落ち着いたのかと思ったが違った。
体育祭の日、久しぶりにゆっくり話せたかと思ったら何も変わってなかった。相変わらずの変態っぷりだ。唇フェチだけで収まんねーんじゃねーかと思う。
体育祭でのあいつの活躍はすごかった。運動なんて好きでも得意でもない俺が見ても、あいつの走りは綺麗だと思う。他の人が後続を気にしながら走ってるのに、あいつだけは前だけを見て走る。午前だけでも2本、そっからこんなダンスやってたのかよって言いたくなったハードなダンス。
それをこなしてまた3本。まじで体力バケモンだな。
見ててね、なんて言ってたけどあんなん誰だって見ると思う。ただまっすぐ、なんの迷いもなく走り続ける。振り返ることなく、ただ進み続ける。何を追いかけて、何を目指したらあんな風に走れるんだろう。
そんな風に走って、どう見たって活躍してたのに、誰もあいつを責めてないのにあいつは落ち込んだ。MVPを取れなかったと落ち込んでいた。
須田や山本が慰めても聞かなくて、俺を連れ出して謝り出した。
謝るあいつ、唯斗を見て、こんな姿みたかったわけじゃねーなって。
あの時、唯斗が俺とのデートを賭けたんだったら多分ブチギレてた。こんな気持ちになんてならない。けど、唯斗はそれをしなかった。悩むそぶりもなく、逆に山本を謝らせると言った。
ゲームみたいに俺のことを思ってないんだって知れて嬉しかった。
どうやったら唯斗が笑うんだろうって考えてたら、気づいたら映画に誘ってた。断じてこれはデートじゃない。
俺はホラーも好きだけど、どうもアレを1人で見るのは心細い。誰かと見たい。だから唯斗を付き合わせるだけだ。
それ以外の理由は、ない。
ありがとう、海くん。
そう言って、唯斗は笑った。
体育祭で見せたキラキラした笑顔じゃなく、穏やかで静かな笑顔。
だけど冷たさはない。
俺はどうも、唯斗のこの穏やかで静かな笑顔に弱い。
やっぱり、この顔は嫌いじゃない。
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