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意地
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「寝れそうか?」
10分位だろうか。
少し嗚咽が収まってきたタイミングでそっと聞かれる
寝れないと言えば、紘はきっと寝ない。
リビングに移動してテレビをつけてくれたり、話し相手になってくれたり、とにかく俺が不安にならないようにって色々してくれる。
今までそうしてきてくれたように。
でも、紘は明日…いや、今日仕事だ
俺とは違う、しっかり社会人。
「…大丈夫。」
くる。と背中を向ける
泣いていたからか、少し背中が熱くなっていた
俺は今寝れなくてもいいけど、紘はそうじゃない。
働いてるんだ、彼は。
「強がってんなよ。お前こうなると寝れないだろ」
「……寝れる。」
「ほんとか?」
「…おう」
ぽろぽろと音もなく流れる涙を、袖で拭おうとしたらそれより先に紘の指先が触れた
「まだ涙も止まってねぇじゃん」
「…俺に触るの、だめ。寝ろ」
目元に触れられれば泣いていることがバレてしまうし、体に触れられればこの若干の震えにもきっと気づかれる。
あまり弱い自分を感じてほしくなかった
……今更だけど。
紘に対して、弱い自分を見られたくないと思うようになったのは最近のこと。
それも、こういうどうしようもなく不安で怖くなるようなとき、あまり踏み込まれたくなかった
多分それは、俺にとって紘が『愚痴をこぼせるだけの人』では無くなってきているから。
だからこそ、パニックになるところは見られたくないし、怖くて泣くのも、あまりバレたくないと思うようになってきた
それがいい事か、良くない事かは分からない。
ただ、不安になったら泣きついて、イライラしたら八つ当たりして、甘えたくなったらくっついて、ヤりたくなったら強請って。そういう自由過ぎる接し方は少し抑えたいと思ってる
俺なりに、もう少し紘と距離を縮めたいと思ったから、不安定過ぎる俺では良くないなって。
でもだからといって不安定なこの気持ちが収まることはない。
だからこそ、バレないように隠したいって、そう思う
「そんな息詰めて泣くな。苦しくなるぞ」
なのに、そんな俺の気持ちを知らない紘は涙を見て見ぬふりはしてくれない
抱き起こされて、背中を撫でられる
「ほら、息つめんな」
頑張って抑えていたのに、優しく撫でられ、呼吸をしやすくされてしまえば、ひっく、と嗚咽が漏れはじめてしまった
「……っ、やだ」
「何が。」
「…大丈夫だからっ」
「俺は俺のセリフ。落ち着け。」
若干パニック気味なことに気づいたのか常夜灯をつけ、後ろから抱きしめられる
「少しテレビでも見るか」
「…っ、みない」
紘は俺の事放っておいて寝て。
「ちょっと気逸らさないとしんどいだろ。
過呼吸とか起こしたら余計辛くなるぞ」
「……ひろ、」
「ん?」
「うぅ」
「どした?」
「っ、…」
俺、どうしたらいいの。
お前には早く寝てほしい。
縋りたくない。
でも今、すごく怖い。
たまにやってくるこの底しれない恐怖。
……怖い、わかんない。
服を握りしめた指先が、冷えて震える
「…ちょっとやべぇな」
「紘…っ」
「体、力抜け。一旦考えるのやめろ。」
「こわ、…怖い…っ」
「電気つけるな」
こんな不安定な自分。大嫌いだ。
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