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帰宅
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「今日はもうあがっていいよ、お疲れ様。
また明後日、よろしくね」
店長の落ち着いた声に時計を見上げる
そしてホッと息をついた
なんとか今日一日乗り越えられた
「はい、ありがとうございました」
最後まで気を抜かずに、にこりと笑顔を作る
洗っていた食器類をしっかりと最後まで洗い終え、これで今日の仕事は終了。
エプロンをロッカーに入れて挨拶をすると店を出た
もう外は日が落ちて暗くなり始めていて、スーツを着た人がちらほらと見える
皆、退社時間か。
俺も今日はその一員。
気を抜けばぺしゃっと座り込んでしまいそうなくらい。
やっと、もの凄い緊張から開放された
あとはもう家に帰るだけ。
薄暗い道をとぼとぼ歩く
疲れた
今日は帰ったらすぐに寝よう
昨日は緊張でどうにかなりそう過ぎて眠れなかったから。
疲れて重い目を擦りながらも、道路にはみ出ないように真っ直ぐ歩く
「おつかれ」
「え、紘だ」
背後から近づいてくる車があることには気づいてた
でもまさか止まるなんて思わなかった。
知り合い?こんなところで?
体が冷えて、思わず目を瞑りかけたところまでいったけどその声にさっきまでの縮こまった気持ちは消えた
紘…え、紘だ。
「乗っていい?良いよな」
嬉しくなって許可もなく勝手に助手席に乗り込む
「どうぞ」
助手席に乗るとふわりと洗濯洗剤のいい香りがした
今日やっと、体に血が通い始めたような温かい安心感。
「ん、ふふ。紘」
「何だよにやにやして」
「にこにこだっつの」
にこにこと、にやにやでは結構大差がある
大事なところだ。勘違いしないでほしい。
俺は今にこにこしてんの。
「お疲れ様」
「今日は帰ったらすぐ寝るから」
本当は昼間電話出てくれてありがとうとか、お疲れ様とか、返したい
でもそれを面と向かって言うのは気恥ずかしかった
「健康でいい」
でも、俺の無愛想な返事にも呆れた様子は無く、俺も早く寝よ。なんて言ってくれる
車に乗れば家までは本当にあっという間で、直ぐにマンションが見えてきた
「疲れたろ。
晩飯は俺作るから休憩してろな」
車から降りて家に向かう最中、そんなことを言われた
紘だって疲れてるのは同じはずなのに。
「ほんとよく頑張ったな」
その言葉が妙に胸に刺さった
紘に言われてるからこその気持ちなのだろう。
仕事に行けなくなったことも
辞めたことも
家から出られなくなったことも
人が怖いっていうのも。
そして俺が今日どれだけ緊張してたかも知っている
それを全部知っている紘が、頑張ったな。って褒めてくれた
何気なく言った言葉かもしれないけど。
でも俺は今の言葉すごく大好き。
素直に嬉しかった
「今度はにこにこしてる」
「にやにやなんて1回もしてない」
「はいはい、可愛い」
「何だよそれ」
わしゃわしゃと撫でてくる手を避けながら家まで並んで歩いた
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