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おともだち初心者
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その日からというものの、
奴はこちらが引いてしまう程の勢いで俺に懐き始めた。
「偉主郎くん、おっはよ」
「あぁ… はよーさん」
「あ。駄目って叱られたのに、またいっぱいピアス付けてるー」
「うるせぇな… おいこら 弄んな」
ほら また…今日も今日とて、
相変わらず馴れ馴れしく耳に触ってくるし。
朝の挨拶はもちろんのこと。こいつは休憩時間ごとに俺の席まで飛んで来て、一方的に自分の話を始める。
父子家庭で幼い頃は祖母に面倒を見られたらしい、そのためおばあちゃん子であること。
家事全般が得意で、何の女子力アピールだか、趣味はお菓子作りだということ。
産まれてから1度も風邪を引いたことがないこと。
小学校時代、羽根が生えてるんじゃないか、なんてからかわれてクラスメイトの前で脱がされたこと。
中学時代のもっとタチの悪いイジメ。
昔飼っていた犬の名前。…えとせとら。
右から左へ受け流す振りをしつつもついつい聞き入ってしまうのは、こいつが俺の目を見て逸らさないから。
取るに足らない昔話から、思い出すのも辛いだろう重っ苦しい話まで軽い調子でぺらぺらと、こいつの口は止まらない。ひと通り喋らせたら舌を切ってやろうかという程煩く、必死になって俺に語り掛けてくる。
話したくて話していると言うよりも、
自身の情報の限りを、強引に俺の中へ流し込んでいるといった感じで、正直気持ち悪い。
「天使君よ… それ、いつまで続くわけ。」
「えっ」
「お友達の居なかったお前に教えてやるけど。
誰だって、自分の話ばかりする奴は苦手なもんだぜ」
溜め息混じりの言葉を返せば、きょとんと首を傾げる天使君は、話し足りないんだろう、まだ納得いかぬ様子で、わかりやすい不服顔で、何度か頷いてみせた。
「ごめんね、つい舞い上がっちゃって。…じゃあ次は、偉主郎君の番」
「あ?」
元々距離感の測れてないこいつが、机の真正面からより一層身を乗り出して、俺の言葉を待っている。
ほらまた…
嬉々とした目が、不気味なくらい真っ直ぐ俺の目を捕らえて離さない。
「教えてよ、偉主郎君のこと… 僕 知りたいんだ」
気持ち悪ぃな。
今まで関わってきた人間の中でも新種だぜ。
イジメられっ子ってのは、皆こうなのか?
… いや。他人から散々酷い目に遭わされてきた奴が、交友関係にこんな積極的なわけあるか。
さも鬱陶しげに細く目を顰めても、満面の笑みに跳ね返される。
あー 気持ち悪い。
「教えねぇ
お前みたいにぺらぺら軽い口じゃねえんだよ」
「ええっ、ひどいよ〜 僕ら友達じゃないか」
「俺がどんな奴なのか、なんて。…いっしょに居れば、嫌でもその内分かんだろ」
むかつくほど均等の取れた顔面に、良く目立つ大きな瞳がふたつ。捨てられた仔犬みたいに目を潤ませて、じっと見詰めてきやがる。
今の所居心地は最悪だが、こんな可愛い仔犬チャンを滅茶苦茶にイジメられると思うと、心底興奮しちまうよ。
散々優しくした挙句、えげつないほど冷たく突き放してやれば、裏切られたこいつは一体どんな面を見せるんだろうか… とか。
「あー 考えただけで勃っちまうよ…」
「え、なに?」
「何でもね」
意地悪い含み笑いを噛み殺し、優しい笑みを繕えば、
天使君は満足げに愛嬌たっぷりの顔を綻ばせた。
「僕、ずっと偉主郎君のそばに居るよ」
「はは。それでいいんじゃね」
お前が『友達』と思って戯れついていた奴が、
本当はどんな奴なのか…
今に思い知らせてやる。
✕ ✕ ✕ ✕
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